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基礎科学関連の「事業仕分け」と一連の騒動 (2)

これまでの経緯はこちら。出遅れ感がありますが、ここに自分の感じたことを書き留めます。書ききれない続きはこちら

2. 私は誰か

どういう立場の人間の意見かを明らかにしておきます(詳細はプロフィールを)。

2003年4月〜2009年9月まで、東大の大学院で宇宙に関する実験物理学の研究を大学院生として行ってきました。その間、2005年4月〜2008年3月(博士課程)は学術振興会の特別研究員という制度に採用され、月額20万円の奨学金を頂いていました。つまり、年収がちょうど240万円です。これはもちろん税金です。この額から、税金、年金、国保、授業料(私が払ったのは、年間25万円くらい)を支払います。

2008年3月で私は博士を取得できず、さらに1年半学生を続けました。特別研究員は最大3年間しか受給できないため、他の収入が必要になります。東大の大学院は比較的資金が潤沢にあるため、グローバルCOEという大型予算で、特別研究員以外の大学院生に給料を支払う余裕があります。いわゆるRA(リサーチアシスタント)やTA(ティーチングアシスタント)と呼ばれる仕組みです。これで、月額15万円弱を1年半にわたって頂きました。これも税金です。

2009年10月〜2010年3月(予定)の期間は、東大で研究員をやっています。この給与はボスの科研費から出ています。2010年4月〜2013年3月の3年間、再度学術振興会の特別研究員に採用され、これは月額36.4万円頂ける予定です。

今回の事業仕分けでは、特別研究員の制度やグローバルCOEの予算縮減が求められました。したがって、私のような立場の生活費や研究費に直結します。

3. 個人的な意見と感想

※この投稿は、私の所属する研究機関、研究室の見解ではなく、あくまで私見です。また基礎科学の研究者全体を代表するものでもありません。私の意見は少数派であると考えています。またまだ駆け出しの研究者であり、これまでに見聞してきたことは非常に狭い分野での話です。例えば生物系の研究者の環境なんてモノは、私は全く知りません。

うちはTVがないので、情報源はネットと新聞(社のサイト)、そして周りにいる研究者や友人。世の中の大勢は「事業仕分け」を評価しているようです。私も「事業仕分け」は大いに賛成で、その意義や効果を説明すらできないような事業はバンバン切り捨てるべきだと思っています。ただしプレゼン上手な官僚だけでもないだろうし、文科省の人間も、まさかここまで悲惨な切られ方をするとも思わずプレゼン資料の準備をしたのでしょう。1時間の枠の中できちんと説明できなかったことや、「仕分け人」が事実誤認をしているようなものについては、何らかの情状酌量があってよいのではないでしょうか。

3.1. 大前提

「基礎科学の研究は、資源の乏しい我が国が科学技術立国として存立するためには必要なものである」

繰り返し多くの研究者が、特に報道されるノーベル賞受賞者の皆さんは、このような言葉を何度も述べています。これは当然のことですし、与党も野党も理解していると思います。

しかし「事業仕分け」の論点はここではなく、「大事だ」と主張するものの中で切れる予算がないかを調べるのが目的です。財務省は「基礎科学の重要性」について興味はもちません。したがって、本当に無駄な部分として指摘されれば、研究者自身はその結論を真摯に受け止め改善するべきでしょうし、逆に必要な部分を事実誤認で、もしくは民主党のパフォーマンス的に切り捨てられたなら、声を上げるべきです。

3.2. 「仕分け人」と文科省官僚の主張はどちらが正論か

少なくともスパコンに関する議論では、「仕分け人」の主張は90%くらい正論です。東大で計算機(電卓ではなくコンピュータを指します)を専門にする金田教授が「仕分け人」として参戦し、財務官僚が綿密に立てた作戦の下地がある状態で「仕分け人」は文科省官僚の大量の弱点を攻め立てました。つまり、「痛い」質問、正しい質問しかなかったのです。関連資料はこちらにまとめましたので、状況を詳しく知りたい方は是非目と耳を通して下さい。

これに対して、「答弁」の側に立った文科省官僚と理研の方は、防戦一方に回っていました。彼らも「スパコンは大事です」「世界一を目指すのは重要です」「これまで議論を積み重ねてきました」という主張をしていました。彼らの主張も、全くもって正論です。少なくとも嘘ではありません。しかし、それを根拠づける資料や戦略が何もなかったのです。

今回の財務省の仕事は、大幅な赤字の予算を減らすことです。一方で、文科省の仕事は研究に必要な予算を死守することです。双方の目的は相反するものですから、予算の必要性を訴える根拠や必死さがなければ、理論武装してきた「仕分け人」に「勝つ」ことはできません。ある程度の準備をしてきたと考えられる毛利さんですら「負け」たのです。

結論として、双方の主張は正しい。ただし、あの舌戦から片方の結論に持っていかざるをえないならば、「予算計上見送り」は妥当だと思います。私は個人的に、さらに大量の国費を投入してでも、NEC富士通といった企業に、世界と伍するCPUの開発を国策でやらせるべきだと感じています。我々の周りにある民生用のCPUやメモリは、その多くがアメリカブランドであったり韓国ブランドだったり、東南アジア製だったりするわけです。国をあげてスパコン開発をするということは、コンピュータ産業の最先端の部分を奪いに行くということです。5年後、10年後という短い期間では結果は出ないかもしれませんが、長い目で見たときに必要な研究です。またスパコンという「技術」の面だけでなく、その上で計算される「科学」も、重要なはずです(私は専門外なのでよく知りません)。

では、理研スパコンチームにその重責が担えるかというと、私にはそのように見えませんでした。「仕分け」作業の双方の主張はどちらも正論でありながら、文科相側は全く説得力がなかったのです。「仕分け人」の主張は、おそらく彼らの意見ではなく財務官僚の仕組んだ筋書きでしょう。ここにあるように、「仕分け」作業の前から問題点が列挙されています。蓮舫議員だって、これを読めば的確な質問ができます。「政治主導ではなく官僚主導ではないか」とか、「仕分け人の質問に対する反射神経だけが求められているようだ」のような批判も確かにあります。しかし、私にとってはそんなことはどうでもよい。

なぜスパコンが「仕分け人」に負けたのか。それは、「その金額は妥当か」「どのような効果があるのか」「NECが抜けても大丈夫か」といった単純な問いに対して、スパコンチーム自体がチーム内でしっかりと議論してこなかったからです。きちんと議論してきたならば、財務官僚から何を言われようが、反射神経的な返答を求められようが、文科省官僚は回答できるはずです。「法律で作ることが決まっているから」とか「予算が既についたから」という生温い環境におかれ、「他に無駄はないか」「本当にこのやり方で大丈夫か」ということを議論してこなかったつけが回ったのでしょう。

これは私の推測にすぎません。しかし、今の巨大プロジェクトは「ついた予算は使いきる」という発想で動くことには疑いようがありません。「10億円かかると思ったら9億円でできた」という事態になった場合、1億円を他のものに回すのが研究者です。その反面、やっぱり11億円かかるとなったときの苦労は大変です。予算の融通の利かなさにも、問題の根っこはあるのでしょう。

3.2. 何が「仕分け」られたのか
3.2.1. スパコンの「仕分け」

「(世界)2位では駄目なのか?」という蓮舫議員の発言が取り上げられ、科学予算縮減の代名詞ともなったスパコン。しつこいですが、これに特化して話を進めます。

スパコンの「仕分け」作業の論点は、極論すれば、「あなた方は費用面も考えずに無茶な計画を立てている。もう一度考え直せ」というもの。ある程度コンピュータに詳しい一般の人であれば、ここを見れば「仕分け人」に賛同してしまうでしょう。

「基礎科学に費用対効果は馴染まない」というのはもっともな話で、普通の研究者は「1億円の実験をやったから、何億円の波及効果がある」なんてことは考えません。波及効果があることを証明しろと言われたら、「基礎科学の重要性は歴史が証明してきた」と言うしかないでしょう。自分に近い分野でよく例に挙げられるのは、

  • アインシュタイン特殊相対性理論がカーナビに使われるGPSの計算に使われている
  • 高エネルギー物理学の研究者が情報伝達の目的で作った道具が、今日のインターネットになった

などがあります。彼らの仕事は、当時どのような利用がされるかなんて考えずに成されたものです。

その一方で、「何のための研究なのか」「目標設定はどこか」「装置にいくら費用がかかるのか」「その成功する可能性はどの程度か」「時間はどれくらいかかると見積もっているのか」「実験で困難と感じている部分はどこで、確実に実行できるのはどれか」というような問いに対しては、我々は普通答えられます。そうでなければ予算は通りませんし、実験計画自体が立案できないからです。「基礎研究は成功するかなんて分からない」という一般論をこの期に及んで言う人もいますが、そんなことを言って何も考えずに学生が実験を始めたら、指導教官に怒鳴られるでしょう。「時間と金を無駄にするな」と。

さて、結論ですが、「仕分け」られたのはスパコンチームの実現可能性の低さ、そして内部で精緻な議論がなされていないという事実です。中の人は反論するかもしれません。しかし「仕分け」作業を聴いた私にはそう見えました。研究者からそのように見えるということは、財務官僚、ひいては国民からそのように見られてもしょうがないでしょう。

スパコンと並んで、たまにGXロケットが「仕分け」られたことも報道されます。「スパコンとロケットが計上見送り」と。どちらも一般国民に分かりやすい単語だからでしょう。「運営交付金」とか「特別研究員」とか言われてもパッと何のことだか分かりませんから。私はロケットは専門ではないので詳細は知りませんが、ものによっては不要なものが正しく「仕分け」られたという研究者の意見もあるそうです。固体ロケットなどがしっかり任務を果たしている今、金食い虫であるGXロケット天然ガス)の開発は役割を終えつつあるということでしょう。

3.2.3. 他の科学関連予算の「仕分け」

スパコンやロケットとは別に、予算縮減となった基礎研究に関する予算がたくさんあります。グローバルCOE、特別教育研究経費、特別研究員制度が「仕分け」で「予算縮減」と判定されました。他にもあるでしょうが、これらが私に直結し、内容を把握しているので取り上げます。

書きかけ。。。