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申請書の審査員を初めてやって感じたこと

研究



先日、某所のある研究予算の申請書 (英語) の審査員を依頼されたので、その審査をしました。これまで何度も自分自身の予算申請はしてきましたが、審査をする側になったのは今回が初めてです。審査する側の視点で感じたことを忘れないうちにまとめておきます。これは審査員側として今回感じたことのみを書くものであり、他にも申請書を書く際に気をつける点は多々あります。そのため、以下の内容が全ての注意点を網羅するわけではありません。以前にも修士論文や夏の学校の集録や学振申請書を書く皆さんへ (書き方、注意点、心得) という記事を書いたので、そちらも参考にしてください。

審査する側の視点と言っても、申請する側でそういう視点の多くはもちろん容易に想像がつきますから、新発見がいっぱいあるというわけではありません。ただ、これまで自分が予算申請をするときに意識してきたことの確認になりました。

最近は大学が競争的資金獲得に必死なので、各大学で科研費の申請書の書き方講座のようなものを開催したり、手引きを発行したりしているようです。例えば東大では『若手研究者に向けて研究生活とキャリアパス』を一般に公開しており、「はじめての競争的資金をめざして」という副題がついています。京都大学は同様のものを部外秘で発行しています。

また以前から、大学生協の書店に行くと科研費の書き方に関する書籍を目にします。例えば『科研費獲得の方法とコツ』なんてそのものずばりの本が出ています。

こういう手引き書に記載されているコツはよく考えれば分かるような当たり前のことしか書かれておらず、わざわざ本にしなくてもという感はあります。ただ、学振の特別研究員の申請なんかだと経験の浅い修士学生が書くわけで、ぜひ先人の経験を活かして欲しいものです。

1. 書式に関すること

1.1 大きい字で書く

当たり前ですが、小さい文字は読めません。僕はまだ 30 代前半なので老眼はありませんが、小さい文字を読むのに苦労している同業者はよく目にします。審査員の多くは若手ではありません。

文字が読みづらいと中身が頭に入ってきませんので、あなたの主張も伝わりにくくなります。また、文字が小さいと 1 行あたりに入る文字数が増えるため、次の行に視線を移動するときに、違う行を間違って読んでしまう頻度が増えます。僕は日本語の申請書は 12 pt で書いています。

1.2 字下げする

段落の先頭では必ず字下げして下さい。審査員は一字一句全てに目を通しているとは限りません。論理的に書かれた文章は適切な長さの段落の組み合わせで構成されます。したがって、新しい段落の開始点を明確にすることは審査員に論理展開を分かりやすく伝えるために必要です。

僕の場合は先頭の字下げに加え、段落と段落の間に通常の行間よりも広い空白を入れるようにしています。申請書が文字で埋め尽くされず、読みやすくなります。

1.3 指定書式を遵守する

海外の場合はよく知りませんが、申請書には指定の書式があったり、Word で申請書の書式が配布されていることが多いと思います。枠の大きさを変更したり、ページ数を勝手に増やさないで下さい。申請書によっては、このような行為が減点対象になると明記されているものもあります。また審査する側からすると、ページ数を勝手に増やす行為は不公平に見えますし、「ああ、この人は注意力が足りないか、規則を破る人なんだな」という印象を持ちます。そんな人に研究をしてもらいたいとは思いません。

2. 審査員の専門性について

2.1 審査員は専門家ではない

これはよく言われることですが、審査員は申請書に関係する分野の専門家であるとは限りません。もちろん、物理系の人に生物系の審査が回ってくることは多くないでしょうが、例えば今回僕が担当した審査では、人工衛星の軌道調整 (これは工学よりで、僕の専門は宇宙線物理) に関する申請書が含まれていました。どれだけ専門の合致した審査員にあたるかは、全体の申請者数に影響してくると思いますが、専門がドンピシャの人が担当になるということは稀だと思うべきです。

2.2 専門外の人が読むという前提で書く

審査員が専門外の人だということは、物理一般の話は知っていても、その特定分野に関する知識は浅い、もしくはほとんど無いと思ったほうが良いでしょう。例えば上記の人工衛星の話の場合、人工衛星を使った観測データの解析などは自分はやりますが、その姿勢制御や軌道変更をどのようにやっているかの細かい話は全く知りません。ですから、その分野の最先端の研究や最重要課題なんかは知らないわけです。

こういう専門外の人が読むという前提に立って、研究の背景、解決すべき課題、競合研究、自分の研究の独自性を分かりやすく伝える必要があります。僕の場合、科研費の申請書の最終確認は専門家でない妻にやってもらっています。これはうちの業界の某先生からのご助言です。

2.3 略語の多用を避ける

頻繁に使う用語には略語を使う場合があります。例えばうちの分野では very high energy を VHE と略し、初出の場所で「very high energy (VHE)」などと書きます。ちゃんと定義してあるんだから読めば分かるのですが、初めて出会う複数の略語が何度も出てくると、専門外の人間には覚えていられませんし、略語の意味を忘れてしまうので本文が頭に入ってきません。略語を使うことに大きな利点がある場合、例えば紙面が非常に限られているとか、略語のほうが一般的に使われる、などの場合を除いては書き下すようにしましょう。

2.4 かなり基礎の部分から説明する

分野外の人が読む場合、研究の意義は相当に簡易に書いたとしても、そもそもの基礎の部分を全く共有できていない場合があります。素人に説明するつもりで、冗長にならない程度に基礎の部分から説明するなり、分野特有の言い回しを避けたりなどの工夫がないと、分野外の人間には理解できません。

2.5 装置名だけでなく、装置の目的も書く

申請書の中に色々な実験装置の名前が出てくる場合があります。書いている側には、装置名から何をするものなのか判断できると思っているのかもしれませんが、そうでない場合が多々あります。どのような装置なのか、何を測る目的のものなのか、簡潔に記述しましょう。

3. 図について

3.1 よそから持ってきた図をコピペして終わりにしない

自分の論文、もしくは他者の関連論文から図を持ってきて申請書に貼り付ける人がいますが、そのまま貼り付けられても理解困難な場合がほとんどです。論文の図は論文の本文や説明文との対応があって、初めて理解可能な図になります。申請書は論文ではありませんので、そのような図を貼り付けられても審査員には理解不能なものになります。不要な線を消す、単位を分野外の人にも分かるものに変更するなど、申請書用に作り直しましょう

3.2 本文中で触れない図を載せない

本文中で言及することもないのに、その図が申請書を補強するかと勘違いして余計な図を載せる人が多くいます。図を載せる限りはその図を本文で言及する必要があります。あなたの分野の専門でない人は、図だけ並べられてもどう解釈して良いのか分かりませんし、本文のどこと対応しているのかすら分かりません。

4. 文章の組み立てかた

4.1 他人に添削をしてもらう

当たり前ですが、提出前に他人に添削してもらいましょう。「ああ、これはちゃんと指導教員に読んでもらっていないな」というものは、よく転がっています。科研費に落ちて悔しがってる人も、聞いてみると誰にも読んでもらっていないなんて人もいます。そんなもの通るわけがありません。

4.2 文章の読みやすさ

英語の申請書を読み比べると、さすがに native の書いたものは読みやすく頭にすらすらと入ってきます。本当は申請書の内容で優劣をつけるべきなのでしょうが、どうしても読みやすい文章は評価が上がってしまいます。これは日本語の申請書であっても同じはずで、中身は同じでもよく練られた明快な文章のほうが、断然好印象になるはずです。何度も推敲しましょう。

4.3 結論や目的を先に書く

研究の背景やこれまでの研究を延々と書いた後に、最後に「本研究の目的は…」と書く人がいます。あなたの中では既知のことでしょうが、審査員は「この申請書は何を目的とするのか」ということを知らないと、研究の背景をいくら書かれても頭の中が繋がりません。また、飛ばし読みされてしまったら、研究の目的や結論を読み落とされてしまう可能性すらあります。審査員が絶対に一字一句読んでくれるなんてことは、期待してはいけません。

4.4 一意に読める文章にする

例えば "hoge" や「ほげ」のように言葉を括って、そのままの意味とは違う意味をもたせたりする書きかたがあります (例えば、「我々はこれまで「常識」とされてきた手法を見直し」など)。これは書き手と読者が共通の知識を持つ前提であれば理解可能でしょうが、そんなことは稀ですので、こういう書きかたは避けましょう。

5. 自分の見せかた

5.1 自分が何をしたかを書く

これまでの研究内容や研究実績を書く時に、その分野や関わった実験の説明に多くの紙面を割いてしまい、レビューのようになっているものがあります。このような欄は決してレビューを書くためのものではなく、あなたが何をしてきたかを説明し、研究実績や能力をアピールするところです。そのプロジェクトの中であなたは何を担当したか、どのような結果を出したか、そういうことを中心に書いてください。

5.2 成果の書きかたは具体的に

「私は重要な貢献をした」のような単純かつ曖昧な表現は避け、具体的にどのような貢献をし、なぜそれが重要であったのかを説明してください。また自分の学位論文、査読論文、学会発表に触れるだけ (例えば「この実験に関わり査読論文としてまとめた」とだけ書く) ではなく、どのような内容の論文だったのか (どのような成果なのか) をちゃんと書いてください。そうしないと、審査員はその該当論文を読む時間なんてありませんから、何をしてきた人なのか全く伝わりません。一発で伝わるような分かりやすい図があると、より良いでしょう。

5.3 一人称を積極的に使う

多人数で行う研究に携わっている場合、主語が実験装置名だったり、実験グループだったり、一人称複数形だったりします。しかしこれだと、申請者がやったことと他の人がやったことの区別をするのが非常に難しくなります。自分がやった部分は、積極的に一人称単数形を使うことで明示するのが良いでしょう。ただし、使い過ぎは読んでいて鬱陶しくなるので、注意が必要です。

5.4 推薦書

原則として申請者が推薦書を読むことはないと思いますが、推薦書は申請書を補完する役割があるのでもちろん重要です。分野外の人が審査する場合は推薦者のことを全く知らないので、推薦者の知名度のみが推薦書の肝ではありません (有名な先生に書いてもらえば良いというわけではありません)。推薦書がまるで申請書の中身と同じようなものだと (例えば、「〜〜君は〜〜実験で〜〜を担当した」のような申請書本文にもあるような客観的事実)、推薦書を読んでも新しい情報が得られません。推薦者とよく相談し、どういう点を推して欲しいか、申請書本体には書いてないどのような点を強調して欲しいか、ある程度すり合わせをするのも良いでしょう。特に、申請書本体は推薦者に必ず読んでもらってください

6. 何を採点されるかを考える

6.1 指定された内容とちゃんと書く

申請書には様々な欄がありますが、研究計画の欄などで「以下の項目についても、この欄で述べてください」のような指示がある場合があります。例えば科研費の研究目的の欄にも、そういう指示があります。これは絶対に分かりやすい形で書いてください。なぜなら、それが採点対象だからです。

例えば「この研究から予想される分野の発展について書くこと」という指示があったとすれば、「この申請から予想される分野の発展は重要かどうか」を評価せよという指示が審査員側に回ってきたりします。「審査には以下の内容を審査対象として見なしますので、注意して書いてくださいね」という助言なのです。

また、その予算の目的に合致していることは非常に大切です。募集要項などに書いてある事業の目的をちゃんと理解して、設立趣旨に合致するような申請書を書いてください。

6.2 なぜその金が必要なのかを説得する

たいていの申請書は予算獲得や給料、奨学金の獲得だと思います。お金の獲得です。申請書には金の使い道を書いたりするわけですが、審査員がその使い道に納得しないと金を渡したいとは思いません。なぜその金が必要か、本当に必要なのか、それをちゃんと説明してください。「他の方法でも同じことを安価にやれるじゃん」なんて思われたりしたら、評価が下がります。