原発の対応について、僕が政府をそれほど疑っていない理由

専門家じゃないですからね。政治としては主観の入った論、科学としては一般論です。
目に見えない放射性物質、聞いていても分からない保安院東京電力の説明、そして物理の素養があっても全く状況の掴めない原子炉の現在の状況。そこで出てくるのが、「政府や東電はちゃんと状況を国民に説明しているのか」という疑いの目。これは当然だと思う。

ただし、多分、現場の人間だって原子炉の状況はちゃんと分かっていない。少ないデータなりに、今より悪化する状況もちゃんと想定しているのだろう。決して楽観視はしていないはずだ。そして、それを国民に知らせたって、誰に何の得があるというのだ。混乱か?絶望感か?それとも、楽観的な予想を伝えて国民を安心させるのか?何を伝えるべきかというのは難しい。

原発への対応は、この数週間での短期決戦と、今後数年間、はては数十年にわたる戦いが必要になるだろう。長期的な被害については、まだ政府は口を閉ざしていると言ってよい。だが、それを説明したところで、今すべきことが解決するわけじゃない。今は長期の心配をするより、短気で原発をどうやって押さえ込むか、そして地震津波被災者をどう救済するか、それが大事。

多分、政府は色んなことを隠している。だけどそれを知ったってしょうがない。だって、マスコミは政府発表の放射線測定の結果だって理解できていないんだから。彼らに科学的素養はない。単に記者会見を文字起こししているだけだ。放射線量の微分値と積分値も区別できない彼らに、様々な原発の今後の可能性について説明して意味があるのか。無用に騒ぎ立てておしまいだろう。

ここまでは、具体的な説明を伴わない、個人的なここ数日間の感想。ここからは、なぜ僕が政府対応をまあまあ信用しているかについて。

僕は政府は黙って淡々と仕事をこなせばいいと思う。我々がとやかく言うより、数々の専門家を抱え込んでいる巨大な集団だ。僕ら個人が思いつくことは、とっくに誰かが思いついている。単に、組織がでか過ぎるだけだ。

僕や友人は、いったい現地で何がおきているのかを整理する為、物理の有志数人で原発周辺の放射線量を監視することにした

2011/3/15 から、文科省福島県内の各地で測定した放射線量を公開し始めた。実際に福島県内がどのように汚染されているのかを調べるためだ。その中の、3/17 の測定結果は、僕にとっては驚くものだった。30 km も離れているのに、100 μSv/h を超える地域があったのだ。


文部科学省の 3/17 の測定より抜粋。測定点 31、32、33 で、それぞれ ~60 μSv/h、~160 μSv/h、~90 μSv/h と、周辺より 50 倍程度高い汚染が発見されている。


▲ 例えば http://book.daa.jp/radiograph.html を利用して原発からの距離と放射線量の関係を調べると、100 μSv/h という値は半径 10 km 付近での値に近いだろうと推測できる。

どの程度の影響があるかは専門家でないので公言しかねるが、3/17 の発表後、ただちに僕は友人や同僚らとこの測定結果を問題視した。避難半径 20 km の外側で、このような状況にあるのは異常であり、半径の拡大など何らかの対策を取るべきだ、と。160 μSv/h というのは、24 時間で 4 mSv であり、10 日間もいれば原発作業者の年間被曝量だ*1。直ちに健康被害はないかもしれないが、そこの住民はその事実を知っているのか、そして政府も文科省の測定を精査しているのかと不安になった。

どれくらい驚いたかというと、政府がこのことへの対応を真剣に検討しないのなら、blog なり Twitter で情報発信をして、危険性を世に知らしめないといけない、と思ったくらいだ。

しかし予想外にも、3/18 の 11 時の枝野官房長官の会見では、以下のような発言があった。

それから、周辺のモニターの数値でございますが、部分的に大きな数字が出ているところはありますが、全体としては人体に影響を与える恐れのある大きな数値は示されておりません。

若干高い数値が出ているポイントがございますが、ここについても、直ちに人体に影響を与える数値ではないと。ただ、地形や気候等によって影響されますので、周辺部のモニタリングを更に強化をいたしまして、そのさらなる詳細な分析ができるようにということを進めているところでございます。

文科省が資料を公開した翌朝である。おそらく、高濃度汚染地域についてはマスコミはこの段階で報じていなかった。この会見を受けてか、同日の 21 時の 朝日の記事で、このことについて触れていた。

マスコミってのは会見受けてから重要性に気がつくんじゃなくて、資料が公開された時点で目を光らせておいてほしいのだが、そういうもんじゃないらしい。

それはともかく、マスコミが報じる前に、ちゃんと問題を意識し会見に臨んだという政府の対応に、僕は安心感を覚えた。なんだ、ちゃんと放射線被害のこと分かってるじゃん、文科省の測定は単なるパフォーマンスじゃないんだ、と。

その後、ちょっと情報源は見当たらないのだが、この地域に住民が残っていないかを再確認しているという発言を誰かがしていた気がする。官邸のページでは見つからない。また、20 km から 30 km の自宅待機の範囲でも、老人ホームの入居者は移動させるという報道 (確か NHK) も耳にした。ちゃんと危険性の高い地域への対応を進めているようである。

なんだ、それだけと思うかもしれないが、これが僕が政府対応をそこそこ信用している理由である。危ないものが見つかれば、それをちゃんと報告し、対応を進める。水やホウレンソウや牛乳もそう。ちゃんと対応はしている。その対応方法が正解なのかは、今は判断できかねる。

=== 2011/3/24 追記 ===
朝日の 3/23 の記事によると、飯舘村では 6100 人の村民中、3200 人が残っているとのこと。

菅野典雄村長は訴える。「なぜこうなったのか、村はどうすればいいのか。国から全く示されず困っている」

とのことなので、(ちと記事中の情報が少ないが) 飯舘村には待機の指示以外が出ていないということになり、僕が上述した「この地域に住民が残っていないかを再確認しているという発言を誰かがしていた気がする」とは一致しない。と言っても、飯舘村の全てが危ないわけでなく、もう少し南に行った地点で高い放射線量が観測されています。飯舘村はそこに近いので、何か指示が行ったかと推測していたのですが、違うようです。その観測点付近の住民には、結局指示が出たのでしょうか。ちょっと様子見。

=== 2011/3/27 さらに追記 ===
2011/3/26 の毎日の記事によると、浪江町の一部の人は既に避難済みとあります。

安全委の代谷(しろや)誠治委員らは25日夜に会見し、福島県浪江町などで高い累積放射線量が観測されたことについて「地域は限定的で既に住民は避難している」とし、現時点で屋内退避区域を拡大する状況にないと強調した。

ちょっと他で情報が見つからないのですが、ひとまずこの安全委の発言を信用して安心することにします。もし情報をお持ちの方がおられましたら、コメント欄にでもお知らせ下さい。

=== 2011/5/3 さらに追記 ===
4/6 に浪江町の仮役場に問い合わせたところ、町の判断で町内全域に避難指示を出しており (政府の指示ではない)、4/6 の時点で、163 人が自主的に町内に残っているとのことです。

*1:2011/03/26 注を追記。これは単純なかけ算であって、内部被爆や、屋内と屋外の違いは一切考慮していません。