福島県内 4,400 箇所の放射線量を可視化して、ついでに年間積算被曝量も推定してみた

福島県内 1,600 箇所の放射線量を可視化してみたの続きです。説明をよく読んでから、図を眺めて下さい。また、1,600 箇所のほうの記事も併せてお読み下さい。長文ですので、体力のある方向け。絵は一番後ろのほうに出てきますが、飛ばし読みせず、可能な限り説明文も読んで頂けるとありがたいです。重なって描画されている点もありますので、ぜひ「大きな地図で見る」を押してみて下さい。

「重過ぎて閲覧できない」という環境の方は、こちらをお試し下さい。ただし、更新されない可能性があります。このページが最新情報です。

1. 作成にいたる経緯

福島県文部科学省は精力的に放射線量の測定を続け、福島県内全域で多数の観測データを公表しています。これは健康被害や避難の判断の基礎となる、とても重要なデータです。測定を進めている担当者の方々の努力は、大変なものだと想像します。

一方で、PDF などで公開されている数値を眺めるだけでは、状況の把握が困難です。政府や福島県も数値の可視化には力を入れているとは言えず、報道でも数字は聞かされるが実感が湧かないというのが僕の感覚です。そのため、各地の放射線量の変化放射線量の県内での広がりを可視化する作業を行ってきました。放射線を過剰に恐れることなく、しかし事態を客観的に把握して適切で十分な防護を取るという目的に少しでも役立てればと思いますが、ここの読者も大した人数じゃないので、まあ体制に影響はないでしょう。

4/26 に、文部科学省が原発周辺の 4/24 時点での放射線量と、来年の 3/11 までの積算線量の推定値を、可視化して公表しました。実は 1 週間ほど前にこれと同様のものを僕も公開する予定だったのですが、時間が取れなかった為、文科省の公開に遅れをとってしまいました。今後、このように行政からちゃんと可視化したデータが公開されるのであれば、僕がもう作業する必要はありません。ただ、せっかく手元で公開準備を進めましたし、同じような図を独立に作成して検証するという作業は意味があると思いますので、文科省の発表とは別に、ここに公開します。

文科省の発表については、もちろん報道されています (例えば朝日新聞の 4/27 の記事)。しかし福島県民の方々にどれくらい周知されているのか、また対策をどのように取れば良いのかの説明が適切に行われているのか、これらがよく分からないので心配になります。

2. 福島県の測定した放射線量のデータ

僕の把握しているだけで、福島県文科省は以下の測定を公開しています。

合計すると 4,553 箇所の大規模な調査です。山間部を除いて、福島県内のほとんどの地域を網羅しています。このうち、場所の特定が可能だった 4,382 箇所の測定を Google Map に重ねました。

3. 測定地点の経緯度 (座標) について

公開データをご覧いただけると分かりますが、4/12 を除いて測定点の経緯度は表示されていません。そのため、多くの測定点の座標を機械処理で半自動で取得しました。従って、表示している座標が 100% 正しいことは保証できません。ご覧になりたい測定点を地図上でクリックし、地名や施設名と地図上の場所が一致していることをご確認下さい。

4/5〜4/7 のデータは、施設名を iタウンページで検索して住所を取得し、その住所から Google Maps API で経緯度に変換しました。iタウンページで見つからなかった施設は、有志の方に手入力して頂きました。

4/12 のデータは、文科省が公開した経緯度を使用しています。日本測地系と思われるため、ここで使われている概算式を利用して世界測地系の経緯度に変換しています。ただし、公開された経緯度の一部が間違っていることが確認されています (海上だったりする)。そのため、幾つかの測定点は正しくない位置に描画されている可能性があります。

4/13、4/14、4/15〜4/17 のデータは、番地が公開されていません。地名を元に、高橋登史朗さんが作成されたページを利用して経緯度を取得しました。そのため、数百メートルは測定点よりずれている可能性があります。自動取得された経緯度が目で見ておかしいと判った場合、その測定点は除外しています。また、〜〜町①や〜〜町②のようになっている地名は、同じ場所として扱っています。

20 km圏内の測定点は、地図でおおまかな位置が公開されています。@nnistar さんに入力して頂きました。

4. 可視化した図について

時間あたりの放射線量地図

上述のように、多数の測定点があるものの、その測定日はバラバラです。従って、単純に測定値を重ね書きしてしまうと、誤解を与える可能性があります。可能な限り科学的に意味のある図にするため、4 種類の図を用意しました。

  1. 測定日の違いを無視し、単純に重ね書きした図
  2. 福島県内の全ての測定値が、福島市 (県北保健福祉事務所 東側駐車場) で測定されている放射線量の時間変化と同様に変化すると仮定して、4/19 時点での測定値を推定した図
  3. 同様に、南相馬市 (南相馬合同庁舎 駐車場) での時間変化を仮定した図
  4. 同様に、いわき市 (いわき合同庁舎 駐車場) での時間変化を仮定した図

なぜ、3 つの測定点での時間変化を仮定したかというと、放射線量の変化の振る舞いは、測定点ごとに大きく異なるためです。


▲ 各地の放射線量モニター。場所ごとに、グラフの傾きなどが異なることが分かる。詳細は放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) を参照。

例えば福島市は、3/15 に急激に放射線量が上昇し、そのあと単調に減少しています。4/10 頃には放射線量が一定値に近づいています (つまり、半減期の長いセシウム成分に移行している)。しかし、いわき市の場合は何度か数時間の上昇があったり振る舞いが異なり、またセシウムへの移行が福島市より遅いように見えます。また南相馬市では、3/12 から放射線量の増大がありました。

このように場所ごとに変化の仕方が異なるため、ある特定の日付の測定があるだけでは、他の日の測定を推測できません。そのため、3 つの異なる時間変化を仮定して、それぞれに作図をしました。興味のある場所が 3 箇所のうちどれに近いかに応じて、ご覧になる図を変えて下さい。

2012/3/11 までの積算被曝量の推定について

積算被曝量を見積もるためには、3/11 以降の放射線量を連続的に測定していなくてはいけません。しかし、そのような測定箇所は数えるほどしかないため、福島県全域で推定するには過去の放射線量を推定するしか方法はありません。文部科学省の推定値が具体的にどのように導かれたのかはっきりしませんが、幾つかの測定を使って推定したのだと思います。

上述のように、各地の放射線量の変化の仕方は場所ごとに異なります。そのため、積算被曝量の推定は 3 種類用意しました。上と同じく、3 つの地点を使っています。

  1. 福島市放射線量の変化を仮定した図
  2. 南相馬市放射線量の変化を仮定した図
  3. いわき市放射線量の変化を仮定した図

例えば 4/5 に地点 A で測定された放射線量が 5 μSv/h だとします。福島市の 4/5 の放射線量の平均値は約 2 μSv/h なので、地点 A の 3/11 以降の放射線量の変化は、福島市のそれを 2.5 倍したものと仮定するわけです。

また、4/20 以降の放射線量は、4/19 の放射線量が持続するものと仮定します。実際にはヨウ素が消えてこれより減少していくはずですが、政府が同様の方法を採用しているので、これに倣います。

また、政府の推定値は、1 日のうち 8 時間を屋外で過ごし、16 時間を木造家屋の中で過ごすと仮定しています。この木造家屋は遮蔽の効果があるので、その遮蔽率が 0.4 だとしています。そうすると、1 日あたりの被曝量は、8 時間/24 時間 × 1 + 16 時間/24 時間 × 0.4 = 0.6 となります。この 0.6 を、屋外で過ごした場合の積算被曝量にかけます。もし 24 時間屋外で過ごす方がいれば、過小評価になるので気をつけて下さい。また、1 日中家の中にいたり、特にコンクリートの建物で生活される場合などは、実際の被曝量はさらに数分の 1 程度に減ると考えられるので、少しだけ安心して下さい。

個人的には、本当は上限値を出すのが筋だと思いますが、文科省の図と比較可能なように、僕の計算でも 0.6 という値を積算被曝量にかけて算出します。

5. 福島県全域の放射線量地図

測定点の色は、次のように対応しています。μSv/h は、毎時マイクロシーベルトです。色の付いていない地域は汚染されていないわけではなく、観測データがないだけです。
5.5 μSv/h 以上、 5.0〜5.5 μSv/h
4.5〜5.0 μSv/h、 4.0〜4.5 μSv/h
3.5〜4.0 μSv/h、 3.0〜3.5 μSv/h
2.5〜3.0 μSv/h、 2.0〜2.5 μSv/h
1.5〜2.0 μSv/h、 1.0〜1.5 μSv/h
0.5〜1.0 μSv/h、 0.5 μSv/h 未満

単純に重ね書きした図



福島市の時間変動を仮定して 4/19 の放射線量に換算した図



南相馬市の時間変動を仮定して 4/19 の放射線量に換算した図



いわき市の時間変動を仮定して 4/19 の放射線量に換算した図



文科省発表の 4/24 に換算した放射線量の図 (上の図と縮尺が違うので注意)


6. 福島県全域の 2011/3/11〜2012/3/11 の積算被曝量推定値地図

mSv はミリシーベルトです。μSv の 1,000 倍です。この図は積算値なので、「毎時」がついていません。時速 × 時間 = 距離の関係と同じで、毎時の放射線量 × 時間 = 積算被曝量になります。
22 mSv 以上、 20〜22 mSv
18〜20 mSv、 16〜18 mSv
14〜16 mSv、 12〜14 mSv
10〜12 mSv、 8〜10 mSv
6〜8 mSv、 4〜6 mSv
2〜4 mSv、 2 mSv 未満

福島市の時間変動を仮定して推定した積算被曝量の図



南相馬市の時間変動を仮定して推定した積算被曝量の図



いわき市の時間変動を仮定して推定した積算被曝量の図




文科省発表の推定積算被曝量の図 (上の図と縮尺が違うので注意)


7. 精度について

A. 放射線計測には必ず測定誤差が伴います。例えば福島県が測定している飯舘村の定点観測では、気温の変化によって測定値が ±10% ほど変動することが分かっています*1。ただし、これは定点観測で知られているだけで、福島県の全域調査で使用した測定器に温度依存性があるかは不明です。

B. また、測定器には必ず機種ごとの癖があります。精確な測定を行うためには、福島県が使用した機器が事前に較正*2されていなくてはいけません。しかし、較正がどのように行われているかは明らかではありません。このような装置の精度も、良くてもせいぜい 5〜10% 程度と思います*3

C. また測定する場所によっても、100 m 程度場所を移動しただけで、放射線量は変わりえます。周囲に何もない場所で測定したか、それとも大きな建築物が周辺にあるかどうかなどで、測定器に届くガンマ線の量が変わってしまうからです。また、地面が土だったかアスファルトだったかによっても、放射性物質の吸着の度合いが変わる可能性があります。これも 10〜20% くらいはあると思いますが、実際に僕が測定したわけではないので、具体的な数字は判りません。

D. 次に、僕が行った推定の精度です。4/5 から 4/19 までの間に、福島市放射線量は 20% 程度減少しています。従って、異なる日付の測定を単純に比較した場合は、20% 程度は不正確な比較をしていることになります。しかし、今回はこの比を使って補正を行っていますので、必然的に 20% よりは小さくなります。福島市南相馬市いわき市のどのグラフを仮定するかによってこの精度は変わりますが、大きく見積もっても 10% 程度の精度では補正を行えているはずです。

E. また、年間積算被曝量の推定値も、どのグラフを仮定したかによって推定値が変わります。例えば福島市立大波小学校の場合、福島市のグラフを仮定すると 22.4 mSv、南相馬市いわき市を仮定すると、それぞれ 19.4 mSv、20.0 mSv という値になります。これも仮定によって、10% くらいばらつきが出るわけです。

以上の全てを考えると、単純に放射線量と言っても、30〜50% は不確かな可能性があります。と言っても、僕が確かに言えるのは、A、D、E の 3 つのみです。B と C は、はっきりしたことは分かりません。

この記事で出てくる図や、政府発表の数値を眺める時、「測定値の精度というのはこんなものなんだ」ということを頭の片隅に置いておいて下さい。

従って、政府発表の積算被曝量推定値では等高線図が使われていますが、「この線から内側は 20 mSv 以上、外側は未満なので、この線より外に出れば大丈夫」という単純なものではありません。測定値に誤差があることも考えて行動して下さい。

8. その他

内部被曝

ここで示した図は、あくまで外部被曝の測定です。原発事故の初期には空気中に大量の放射性ヨウ素が含まれていたと考えられ、それを体内に吸入している可能性があります。そのヨウ素内部被曝をしている可能性がありますので、原発周辺で屋外で長時間過ごされた方は、外部被曝に加えて内部被曝もあるのだということを覚えておいて下さい。屋内退避をしていても、換気のよい建物であればヨウ素が室内に入り込んでいる可能性があります。また飲食経由で取り込まれる分もあります。内部被曝の見積もりについては私の知識の範囲を超えるので、ここでは書けません。

木造家屋の遮蔽について

原子力安全委員会が公開している「原子力施設等の防災対策について」という資料によると、表-2 に「沈着した放射性物質ガンマ線による被ばくの低減係数」が載っています。これを見ると、以下のような低減係数が定義されています。

場所 低減係数
理想的な平滑な面上1m(無限の広さ) 1.00
通常の土地の条件下で地面から1mの高さ 0.70
平屋あるいは2階だての木造家屋 0.40

屋外での放射線の実際の測定は、このうちの「通常の土地の条件下で地面から1mの高さ」に相当すると考えられる為、実際には 0.4 ではなくて 0.4/0.7 = 0.57 を用いるべきな気がします。そうすると、8 時間/24 時間 × 1 + 16 時間/24 時間 × 0.4/0.7 = 0.71 となり、政府の推定方法は過小評価だと言えます。ここらへんの数字の妥当性がはっきりしないので、要調査ですね。また、木造家屋であっても窓の側だったり、床面積の大きさや壁の枚数でも遮蔽率は変わるでしょうから、あくまで目安としてお考え下さい。

現実的な今後

年間被曝量の推定には、4/19 の放射線量が持続すると仮定しています (Cs 137 の半減期が 30 年と長いため)。しかし実際にはヨウ素成分 (半減期 8 日) や、Cs 134 (半減期 2 年) がさらに減少するので、少なくとも 5% とか 10% くらいは積算値が少なくなるでしょう。

これに加えて、福島県の一部の学校では、校庭の土壌除去を試験的に開始し、放射線量が半分程度減少することが分かっています (例えば毎日新聞の 4/27 の記事を参照)。このような除染を組織立って進めることにより、被曝量が半分程度に下がる望みがあります。

*1:24 時間周期のため温度と思われますが、温度以外の可能性もあるかもしれません。

*2:信頼のできる測定方法で、装置の測定値が正しい値を示すように調整すること。時報に合わせて時計の針を動かすようなものです。

*3:物理実験の経験から。