学位論文のコピペの責任は誰が負うべきか、学位剥奪の前にすべきこと

修士論文や博士論文といった学位取得論文にコピペが見つかった場合、誰が責任を負うべきか。これは論文の著者たる学生本人が第一義に責任を負うのは当然である。しかし、そのようなコピペを堂々と書かせてしまうような指導教員や大学にも、かなりの問題がある。 

小保方氏の博士論文以外にも、早稲田大学の該当研究科ではたくさんのコピペ博士論文が発見されている。これは小保方氏個人の倫理観欠如と言うよりも、その研究科ではコピペがある種の伝統になっていたと思われる。

このような悪しき「伝統」が早稲田特有、バイオ系特有のものかというと決してそんなことはなく、他の分野、他の大学においても特に修士論文では散見される。実際、先輩や他人の書いた修論や論文からコピペをするという不正を、自分は複数の大学で見たことがあるし、自分の経験は全て物理学の分野である。

自分の発見した不正行為に関して言えば、学生本人たちに罪の意識は低い。何故かというと、それが悪いことなのだという教育をちゃんと受けていないし、先輩もやっていることだからだ。そして、指導教員や審査員が真面目に学位論文に目を通さないばっかりに、このようなコピペ行為が明らかになるのは、残念なことに彼ら以外の読者が目を通したときなのである。

多くのコピペ行為は、その発見が困難なものではない。よそから丸々文章を引っ張ってきているため、自分の学位論文に直接関係のないことまで書かれていたり、自分で考えた文章ではないため、他の章との論理展開と不整合だったりする。また微妙に「てにをは」を変えてきたりするため、練られた元の文章と違い、日本語として破綻している場合がある。訓練された研究者がその論文をちゃんと読めば、「あれ、何かこの部分はおかしいな」と気が付くはずである。例えば小保方氏の博士論文の場合、図の出典が一切明記されていないこと、自分の博士論文の動機の説明などではなく一般論や該当分野の解説が延々と続くことからして、(ちゃんと読んでいるのであれば) 指導教員や論文審査員はコピペに気が付くのは当然である。

学生の論文指導をちゃんとやらない指導教員にあたってしまった場合、そしてコピペをしてはいけないと教育を受けなかったり、周りや先輩が当然のようにコピペをしている環境に学生が置かれてしまった場合、一度学位の授与されてしまった卒業生から学位の剥奪するというのは、困難なのではないだろうか。また、学位を剥奪するのが適当だろうか。書き直しを命じて再度審査をやり直すというのが、教育機関として真っ当な対応方法だと思う。そして、そのような指導や審査を行った大学、教員に対して、厳正な処分が下されるべきだ (厳格な教育や審査が行われていたのに、学生が巧妙に不正行為を忍ばせたのであれば、この限りではない)。

長い文章のコピペほど悪質ではないが、軽微な不正行為の例として図表の無断転載 (引用元を明記しないで使用) がある。学位論文では特にイントロ部分などで他の論文の図を使用することがあるのだが、元の論文から図を持ってきたことを明記しない場合、「この図は私が自分で作りました」と宣言することに等しく、不正行為とみなされるし、また著作権の観点からも不適切である (もちろん、その図を学生本人が作ったわけではないのは、論文の流れから明白な場合が多い)。

少なくとも宇宙線物理学の実験系では、この不正行為*1が半分くらいの修士論文で行われているというのを経験的に知っている。そして、指導教員や修論審査員から指摘を受けることもなく、不正を残したまま学位が授与されている。

実際に自分の修士論文でも図表の引用元をちゃんと明記せずに使用したものがあるので、これが修士の学位剥奪に相当するのであれば学位授与機関である東京大学と争うことになるだろう。しかし大事なことは、そのような形式上の不備が例え東京大学であっても、ちゃんと指摘されないまま学位が授与されうるということである (形式の不備までちゃんと指導されないが、本文は非常にしっかり審査員に読んで頂いている)。もちろん大事なのは学位論文の本文なのだが、学位論文としての形式を守るということも徹底しなくてはいけない。

早稲田が今後どのような対応するかはともかく、若手の研究者がやるべきことは、ちゃんと学生の指導をすることに尽きる。多くのコピペは、指導をちゃんとすること、学位論文をちゃんと読むことで防げる。「コピペを許す空気の醸成に加担したことのない指導教員のみが石を投げなさい」と言われたら、自信を持って石を投げられる研究者はどれだけ日本にいるだろうか。

論文捏造 (中公新書ラクレ)

論文捏造 (中公新書ラクレ)

 
背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?

背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?

 

 

*1:広いエネルギー範囲での全宇宙線のスペクトルを描いた有名な図です。あれは出典がどこなのか分からないまま広くうちの業界で使われていて、多くの学位論文や他の文書で出典が書かれずに使われています。出典が分からずに図を使うなんてのは科学としては言語同断で、こういうのはうちの業界でちゃんと浄化しないといけません。Swordy (2001) に白黒の図がありますが、最初の作成は Cronin et al. (1997) 用のようです。カラー版の初出はどこなのか不明です。

国立大学助教の給料 – その初任給と昇給の計算方法

助教になるといくら貰えるの?」という疑問を持つ院生やポスドクの方は少なくないと思いますが、人生設計に給与額はかなり関係してくるにも関わらず、公募情報などには「〜〜大学給与規定に基づき支給」のような書き方しかありません。普通の人には「〜〜大学給与規定」なんてものから算出するのは、ほぼ無理です。

名古屋大学の場合、「名古屋大学職員給与規定」と「名古屋大学職員本給細則」にこの情報が書かれています。どの国立大学も中身はほとんど同じなので、基本的に同じように計算できます。

初任給の計算

名古屋大学職員給与規定」には初任給の規定があります。

(初任給)
第6条 新たに採用する者の初任給は,その者の学歴,免許・資格,職務経験及び他の職員との均衡を考慮して,別に定める。

この「考慮して」の部分は、助教の場合だと「名古屋大学職員本給細則」にある「教育職本給表(一)初任給基準表」に基づくようです。これを見ると、4 年制大学卒で博士課程を修了した平均的な助教の場合、本給表 (俸給表) の「2 級 31 号給」から給料が開始されることが分かります。

さて、「本給表」とは何でしょうか。大学の教職員の給料は基本的に本給表に従って計算されます。そのため、年俸制でない限り、同じような経験年数、勤務年数の人は同じような給料になります。

助教の場合は「教育職本給表 (一)」を見ればよく、級が 2 級に相当し、経験年数によって号給が決定されます。

助教は「2 級 31 号給」からの開始なので、月給の基準額は 283,200 円です。ただし、博士取得後にポスドクなどを経験していると「経験年数」が加算されます。

名古屋大学職員本給細則」には経験年数に関する取り決めがあり、次のように記載されています。

(経験年数を有する者の本給)
第15条 新たに職員となった次の各号に掲げる者のうち当該各号に定める経験年数を有する者の本給は,第12条第1項の規定による号給(前条第1項の規定の適用を受ける者にあっては,同項の規定による号給。以下この項において「基準号給」という。)の号数に,当該経験年数の月数を12月(その者の経験年数のうち5年を超える経験年数(第2号,第3号又は第5号に掲げる者で必要経験年数が5年以上の年数とされている職務の級に決定されたものにあっては,当該各号に定める経験年数とし,職員の職務にその経験が直接役立つと認められる職務であって別に定めるものに従事した期間のある職員の経験年数のうち部内の他の職員との均衡を考慮して総長が相当と認める年数を除く。)の月数にあっては18月)で除した数(1未満の端数があるときは,これを切り捨てた数)に別表第8に定める昇給号給数表のC欄の上段に掲げる号給数を乗じて得た数を加えて得た数を号数とする号給(別に定める者にあっては,当該号給の数に3を超えない範囲内で別に定める数を加えて得た数を号数とする号給)とすることができる。

要は、ポスドク等を例えば 3 年と 9 ヶ月やったとしたら、端数切り捨てで 3 年の経験年数と見なし、この年数に 4 号給 (「別表第8に定める昇給号給数表のC欄の上段に掲げる号給数」に相当) を乗じますということです。

僕の場合は博士取得後に特任研究員を 6 ヶ月、学振 PD を 2 年5 ヶ月やったので、経験年数が 2 年という扱いです。したがって、31 号給ではなく 39 号給 (304,400 円) からの開始でした。わざと 1 ヶ月着任を後ろにずらせば、経験年数が 3 年という扱いになったので、毎年の年収が 10 万円くらい変わったみたいです。残念。

昇給の計算

助教の場合に人事評価がどうなっているのか理解していないのですが、勤務成績が「良好」の場合は 1 年あたり 4 号給ずつ昇給して行きます。したがって、例えばポスドクの経験年数 3 年で 5 年間助教として勤務すると、31 + 3 × 4 + 5 × 4 = 62 号給になり、月額 332,500 円になります。

だいたい、年間合計 10 万円くらい昇給すると思えば良い計算です。

助教の場合 141 号給が最大ですので、31 号給から開始したとすると、ここに達するのに 27.5 年かかります。28 歳開始だとして 56 歳くらいの時ですね。141 号給で 383,800 円なので、後述するボーナスと各種手当を含めて、最大でも年収 750 万円というところでしょうか。

その他の手当

月額 30 万円くらいと聞くと学振 PD のほうが良いように見えますが、各種手当がこれに加算されます。

一番大きいのは賞与で、名大の場合は期末手当と勤勉手当という名称です。これは年間 4.5 ヶ月分くらいのようです。つまり、月額 30 万円の号給を貰っている場合、年間ではこれに 16.5 を乗じた額、約 500 万円が基本給と賞与として支給されます。

また、大学院生の指導を行う場合は大学院指導手当が (僕の職場だと助教の場合 1 万円/月くらい) つきます。ただし、3 ヶ月以上の長期出張をすると支給されません。

地域手当が 4 万円/月くらい、住居手当が最大 2.7 万円/月です。これらは大学によって異なると思います。

僕の場合、妻子ありなので、扶養手当も 2 万円/月くらいついています。これは子供の数と、配偶者の収入によって変わるはずです。

センター試験の試験監督をやると、2 月に入試手当が 1.8 万円加算されます。土日出勤の丸二日間拘束ですので、ちと安い気もします。

あと、勤務年数に応じて退職金が加算されていきます。給料の 10% くらい (?) が毎年退職金の合計額に加算されるはずです。これが任期付きの年俸制職との見えない差でしょうか。ただし今後、退職金という制度がいつまで維持されるのかは不明です。

申請書の審査員を初めてやって感じたこと(申請書の書き方や注意点)

先日、某所のある研究予算の申請書 (英語) の審査員を依頼されたので、その審査をしました。これまで何度も自分自身の予算申請はしてきましたが、審査をする側になったのは今回が初めてです。審査する側の視点で感じたことを忘れないうちにまとめておきます。これは審査員側として今回感じたことのみを書くものであり、他にも申請書を書く際に気をつける点は多々あります。そのため、以下の内容が全ての注意点を網羅するわけではありません。以前にも修士論文や夏の学校の集録や学振申請書を書く皆さんへ (書き方、注意点、心得) という記事を書いたので、そちらも参考にしてください。

審査する側の視点と言っても、申請する側でそういう視点の多くはもちろん容易に想像がつきますから、新発見がいっぱいあるというわけではありません。ただ、これまで自分が予算申請をするときに意識してきたことの確認になりました。

最近は大学が競争的資金獲得に必死なので、各大学で科研費の申請書の書き方講座のようなものを開催したり、手引きを発行したりしているようです。例えば東大では『若手研究者に向けて研究生活とキャリアパス』を一般に公開しており、「はじめての競争的資金をめざして」という副題がついています。京都大学は同様のものを部外秘で発行しています。

また以前から、大学生協の書店に行くと科研費の書き方に関する書籍を目にします。例えば『科研費獲得の方法とコツ』なんてそのものずばりの本が出ています。

こういう手引き書に記載されているコツはよく考えれば分かるような当たり前のことしか書かれておらず、わざわざ本にしなくてもという感はあります。ただ、学振の特別研究員の申請なんかだと経験の浅い修士学生が書くわけで、ぜひ先人の経験を活かして欲しいものです。

学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ (KS科学一般書)

学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ (KS科学一般書)

科研費採択に向けた効果的なアプローチ

科研費採択に向けた効果的なアプローチ

1. 書式に関すること

1.1 大きい字で書く

当たり前ですが、小さい文字は読めません。僕はまだ 30 代前半なので老眼はありませんが、小さい文字を読むのに苦労している同業者はよく目にします。審査員の多くは若手ではありません。

文字が読みづらいと中身が頭に入ってきませんので、あなたの主張も伝わりにくくなります。また、文字が小さいと 1 行あたりに入る文字数が増えるため、次の行に視線を移動するときに、違う行を間違って読んでしまう頻度が増えます。僕は日本語の申請書は 12 pt で書いています。

1.2 字下げする

段落の先頭では必ず字下げして下さい。審査員は一字一句全てに目を通しているとは限りません。論理的に書かれた文章は適切な長さの段落の組み合わせで構成されます。したがって、新しい段落の開始点を明確にすることは審査員に論理展開を分かりやすく伝えるために必要です。

僕の場合は先頭の字下げに加え、段落と段落の間に通常の行間よりも広い空白を入れるようにしています。申請書が文字で埋め尽くされず、読みやすくなります。

1.3 指定書式を遵守する

海外の場合はよく知りませんが、申請書には指定の書式があったり、Word で申請書の書式が配布されていることが多いと思います。枠の大きさを変更したり、ページ数を勝手に増やさないで下さい。申請書によっては、このような行為が減点対象になると明記されているものもあります。また審査する側からすると、ページ数を勝手に増やす行為は不公平に見えますし、「ああ、この人は注意力が足りないか、規則を破る人なんだな」という印象を持ちます。そんな人に研究をしてもらいたいとは思いません。

2. 審査員の専門性について

2.1 審査員は専門家ではない

これはよく言われることですが、審査員は申請書に関係する分野の専門家であるとは限りません。もちろん、物理系の人に生物系の審査が回ってくることは多くないでしょうが、例えば今回僕が担当した審査では、人工衛星の軌道調整 (これは工学よりで、僕の専門は宇宙線物理) に関する申請書が含まれていました。どれだけ専門の合致した審査員にあたるかは、全体の申請者数に影響してくると思いますが、専門がドンピシャの人が担当になるということは稀だと思うべきです。

2.2 専門外の人が読むという前提で書く

審査員が専門外の人だということは、物理一般の話は知っていても、その特定分野に関する知識は浅い、もしくはほとんど無いと思ったほうが良いでしょう。例えば上記の人工衛星の話の場合、人工衛星を使った観測データの解析などは自分はやりますが、その姿勢制御や軌道変更をどのようにやっているかの細かい話は全く知りません。ですから、その分野の最先端の研究や最重要課題なんかは知らないわけです。

こういう専門外の人が読むという前提に立って、研究の背景、解決すべき課題、競合研究、自分の研究の独自性を分かりやすく伝える必要があります。僕の場合、科研費の申請書の最終確認は専門家でない妻にやってもらっています。これはうちの業界の某先生からのご助言です。

2.3 略語の多用を避ける

頻繁に使う用語には略語を使う場合があります。例えばうちの分野では very high energy を VHE と略し、初出の場所で「very high energy (VHE)」などと書きます。ちゃんと定義してあるんだから読めば分かるのですが、初めて出会う複数の略語が何度も出てくると、専門外の人間には覚えていられませんし、略語の意味を忘れてしまうので本文が頭に入ってきません。略語を使うことに大きな利点がある場合、例えば紙面が非常に限られているとか、略語のほうが一般的に使われる、などの場合を除いては書き下すようにしましょう。

2.4 かなり基礎の部分から説明する

分野外の人が読む場合、研究の意義は相当に簡易に書いたとしても、そもそもの基礎の部分を全く共有できていない場合があります。素人に説明するつもりで、冗長にならない程度に基礎の部分から説明するなり、分野特有の言い回しを避けたりなどの工夫がないと、分野外の人間には理解できません。

2.5 装置名だけでなく、装置の目的も書く

申請書の中に色々な実験装置の名前が出てくる場合があります。書いている側には、装置名から何をするものなのか判断できると思っているのかもしれませんが、そうでない場合が多々あります。どのような装置なのか、何を測る目的のものなのか、簡潔に記述しましょう。

3. 図について

3.1 よそから持ってきた図をコピペして終わりにしない

自分の論文、もしくは他者の関連論文から図を持ってきて申請書に貼り付ける人がいますが、そのまま貼り付けられても理解困難な場合がほとんどです。論文の図は論文の本文や説明文との対応があって、初めて理解可能な図になります。申請書は論文ではありませんので、そのような図を貼り付けられても審査員には理解不能なものになります。不要な線を消す、単位を分野外の人にも分かるものに変更するなど、申請書用に作り直しましょう

3.2 本文中で触れない図を載せない

本文中で言及することもないのに、その図が申請書を補強するかと勘違いして余計な図を載せる人が多くいます。図を載せる限りはその図を本文で言及する必要があります。あなたの分野の専門でない人は、図だけ並べられてもどう解釈して良いのか分かりませんし、本文のどこと対応しているのかすら分かりません。

4. 文章の組み立てかた

4.1 他人に添削をしてもらう

当たり前ですが、提出前に他人に添削してもらいましょう。「ああ、これはちゃんと指導教員に読んでもらっていないな」というものは、よく転がっています。科研費に落ちて悔しがってる人も、聞いてみると誰にも読んでもらっていないなんて人もいます。そんなもの通るわけがありません。

4.2 文章の読みやすさ

英語の申請書を読み比べると、さすがに native の書いたものは読みやすく頭にすらすらと入ってきます。本当は申請書の内容で優劣をつけるべきなのでしょうが、どうしても読みやすい文章は評価が上がってしまいます。これは日本語の申請書であっても同じはずで、中身は同じでもよく練られた明快な文章のほうが、断然好印象になるはずです。何度も推敲しましょう。

4.3 結論や目的を先に書く

研究の背景やこれまでの研究を延々と書いた後に、最後に「本研究の目的は…」と書く人がいます。あなたの中では既知のことでしょうが、審査員は「この申請書は何を目的とするのか」ということを知らないと、研究の背景をいくら書かれても頭の中が繋がりません。また、飛ばし読みされてしまったら、研究の目的や結論を読み落とされてしまう可能性すらあります。審査員が絶対に一字一句読んでくれるなんてことは、期待してはいけません。

4.4 一意に読める文章にする

例えば "hoge" や「ほげ」のように言葉を括って、そのままの意味とは違う意味をもたせたりする書きかたがあります (例えば、「我々はこれまで「常識」とされてきた手法を見直し」など)。これは書き手と読者が共通の知識を持つ前提であれば理解可能でしょうが、そんなことは稀ですので、こういう書きかたは避けましょう。

5. 自分の見せかた

5.1 自分が何をしたかを書く

これまでの研究内容や研究実績を書く時に、その分野や関わった実験の説明に多くの紙面を割いてしまい、レビューのようになっているものがあります。このような欄は決してレビューを書くためのものではなく、あなたが何をしてきたかを説明し、研究実績や能力をアピールするところです。そのプロジェクトの中であなたは何を担当したか、どのような結果を出したか、そういうことを中心に書いてください。

5.2 成果の書きかたは具体的に

「私は重要な貢献をした」のような単純かつ曖昧な表現は避け、具体的にどのような貢献をし、なぜそれが重要であったのかを説明してください。また自分の学位論文、査読論文、学会発表に触れるだけ (例えば「この実験に関わり査読論文としてまとめた」とだけ書く) ではなく、どのような内容の論文だったのか (どのような成果なのか) をちゃんと書いてください。そうしないと、審査員はその該当論文を読む時間なんてありませんから、何をしてきた人なのか全く伝わりません。一発で伝わるような分かりやすい図があると、より良いでしょう。

5.3 一人称を積極的に使う

多人数で行う研究に携わっている場合、主語が実験装置名だったり、実験グループだったり、一人称複数形だったりします。しかしこれだと、申請者がやったことと他の人がやったことの区別をするのが非常に難しくなります。自分がやった部分は、積極的に一人称単数形を使うことで明示するのが良いでしょう。ただし、使い過ぎは読んでいて鬱陶しくなるので、注意が必要です。

5.4 推薦書

原則として申請者が推薦書を読むことはないと思いますが、推薦書は申請書を補完する役割があるのでもちろん重要です。分野外の人が審査する場合は推薦者のことを全く知らないので、推薦者の知名度のみが推薦書の肝ではありません (有名な先生に書いてもらえば良いというわけではありません)。推薦書がまるで申請書の中身と同じようなものだと (例えば、「〜〜君は〜〜実験で〜〜を担当した」のような申請書本文にもあるような客観的事実)、推薦書を読んでも新しい情報が得られません。推薦者とよく相談し、どういう点を推して欲しいか、申請書本体には書いてないどのような点を強調して欲しいか、ある程度すり合わせをするのも良いでしょう。特に、申請書本体は推薦者に必ず読んでもらってください

6. 何を採点されるかを考える

6.1 指定された内容とちゃんと書く

申請書には様々な欄がありますが、研究計画の欄などで「以下の項目についても、この欄で述べてください」のような指示がある場合があります。例えば科研費の研究目的の欄にも、そういう指示があります。これは絶対に分かりやすい形で書いてください。なぜなら、それが採点対象だからです。

例えば「この研究から予想される分野の発展について書くこと」という指示があったとすれば、「この申請から予想される分野の発展は重要かどうか」を評価せよという指示が審査員側に回ってきたりします。「審査には以下の内容を審査対象として見なしますので、注意して書いてくださいね」という助言なのです。

また、その予算の目的に合致していることは非常に大切です。募集要項などに書いてある事業の目的をちゃんと理解して、設立趣旨に合致するような申請書を書いてください。

6.2 なぜその金が必要なのかを説得する

たいていの申請書は予算獲得や給料、奨学金の獲得だと思います。お金の獲得です。申請書には金の使い道を書いたりするわけですが、審査員がその使い道に納得しないと金を渡したいとは思いません。なぜその金が必要か、本当に必要なのか、それをちゃんと説明してください。「他の方法でも同じことを安価にやれるじゃん」なんて思われたりしたら、評価が下がります。

研究者を目指す大学院生なら知っておきたい、天文分野のポスドクの給料の相場

学振 PD が任期 4 年間になるだとか、国立大学教員の給料が年俸制に移行するだとかというニュースを目にして、前々から気になっていたポスドクの給料の相場がどんなものか調べてみました。

博士号だけでは不十分! ―理系研究者として生き残るために

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高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

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日本天文学会には TENNET というメーリングリストがあり、その内容は公開されています。そこに流れる情報の数割は公募情報なので、過去ログを漁るとポスドクの給料の情報が分かります。こういう情報は若手研究者や大学院生にとってとても重要なのに、あまりまとめられていない気がするので誰かの役には立つでしょう。もしかしたら大学院進学を断念する理由にもなるかもしれない。

ざっと 1 年分くらいを眺めて、まとめたものが次の表です。特任助教と特任准教授も「ポスドク」に含めましたが、ここでの「ポスドク」の定義は「退職金や賞与のない職」です。なぜ含めたかというと、特任助教や特任准教授 (大学によって「特定」だったり「特命」だったりもします) は給与形態が助教や准教授と大きく異なる場合があるからです。

表の後ろに色々と大事なことが書かれているので、スクロールしてください。

肩書き 任期 (延長含) 月給 (万円、括弧内は海外勤務の場合) 年間研究費 (万円)
特任助教 5 助教相当
特任助教 5 助教相当
特任准教授 5 准教授相当
特任研究員 3 30 50
非常勤研究員 2 30 小額
特任助教 4 30
特任准教授 5 50
研究員 4 30 50
研究員 3 規程による
特任助教 3 規程による
特任研究員 2 33
特任研究員 3 30 50
プロジェクト研究員(特任研究員) 3 30 (52) 50
研究員 5 40〜58
フェロー(特任助教 5 50 (77) 100
特任助教 2 40〜58
特任研究員 3 30 50
特任研究員 3 規程による
特任助教 4 35
サポート・アストロノマー 3 36.2
特任助教 5 助教相当
特任准教授 5 准教授相当
特任助教 5 規程
特任助教 5 規程
特任助教 5 助教相当
特任准教授 5 准教授相当
特任研究員 4 30
プロジェクト研究員 3 30
ポストドクトラルフェロー 1 27
研究員 2 30
研究員 2 規程による
研究員 3 規程による
招聘職員 3 規程による
特任研究員 2 規程による
プロジェクト研究員 1 規程による
研究員 3 30
博士研究員 2 25〜40
特定研究員 2 規程による
特任研究員 2 30〜36
研究員 3 助教相当
主任研究員 3 准教授相当
特任助教 2 規程による
特任研究員 2 30
研究員 5 30
特任助教 4 規程による
特任研究員 2 33
研究員 3 30
特任准教授 6 規程による 70
特任准教授 6 規程による 70
特任助教 6 規程による 70
特任助教 5 規程による 70
特任准教授 6 規程による 70
特任助教 6 規程による 70
特任講師 5 規程による 70
特任准教授 5 規程による 70
特任助教 5 規程による 70
特任講師 5 規程による 70
特任助教 5 規程による 70
特任准教授 6 規程による 70
研究員 5 37.5 50
研究員 5 37.5 50
研究員 5 37.5 50
研究員 5 37.5 50
研究員 5 37.5 50
ポスドク研究員 3 34
特任研究員 4 37
特任教員 4 31〜37

この表の読み方は人によって色々だと思うのですが、いくつか注意点があります。

  1. 天文学会に流れる公募情報ということで、天文台関係の公募が多数(月給 30 万 + 研究費 50 万とか)
  2. ポスドク」と言っても、パッと見で「これは研究職ではないな」というものは除外(技術支援員とか広報とか教務補佐員の名称で、職務内容に「研究」についてほとんど触れていないようなもの)
  3. 後ろのほうにある研究費を 70 万とか 50 万支給するやつは、全部名古屋大のリーディング大学院関係
  4. 理研の募集は、給料に加えて住宅手当ありのものがあった (金額不明)
  5. 時給で支払いの職の場合、社会保険とかつかないものあり
  6. 助教相当」や「規程による」とあるものは、公募情報には月給があらわに書いていないもの
  7. 特任助教で「助教相当」とか「規程による」となっているものは、実際には助教 (年齢によるけど国立大だと恐らく年 600 万弱以上) より少し悪いと思われる
  8. もっと低い給料のものは、そもそも公募に出さないで関係者のみで情報が回る場合もあり

研究職ではないものは除外しましたが、広報だとかサーバ管理だとかそういう仕事だと、月給 20 万円代は結構あります。

TENNET に流れる公募だと、研究員という肩書きの場合は 30〜40 万円くらいが相場のようです。年収 360〜480 万円くらいですね。

こういうポスドクの他に、給料の良いポスドクというのがいくつかあります。僕が関係するようなものや近隣分野 (天文、物理、宇宙、素粒子宇宙線原子核など) だと、学術振興会特別研究員 PD (学振 PD)、同 SPD (学振 SPD)、同海外特別研究員 (海外学振)、理化学研究所基礎科学特別研究員 (基礎特研)、JAXA 任期付プロジェクト研究員、日本原子力研究開発機構博士研究員が挙げられます。一般的には、これらのポスドクのほうが給料が良いです。特殊なものとして、宇宙科学研究所 (ISAS) の International Top Young Fellowship (ITY) という制度もあり、これは海外からも優秀な人材を獲得する狙いがあるので、破格の給料です。

名称 任期 月給 年間研究費 その他
学振 PD 3 36.2 150 (最大、普通は 100 くらい) 社会保険雇用保険通勤手当なし
学振 SPD 3 44.6 300 (最大、普通の金額は知らない) 社会保険雇用保険通勤手当なし
海外学振 2 43.8 社会保険雇用保険通勤手当なし、科研費申請資格なし
基礎特研 3 48.7 100 住宅手当あり (噂だと 5 万円くらい)
JAXA 3 40.36 業績手当あり (支給状況は知らない)
原研 3 42 住居手当、業績手当あり (支給状況は知らない)
ITY 3 (最大 5) 79.1 250 住居手当あり (支給状況は知らない)

ITY を別として、給料と研究費の面では基礎特研がずば抜けてます。ちなみに僕は D3 のときに応募して落ちました。そもそも、その年に博士論文は出せませんでしたが。

学振 PD は一見すると平均的なポスドクより良いように見えますが、学振と雇用関係にないため社会保険がなく、国保国民年金に自分で加入しなくてはいけません。妻子持ちだったりすると、これだけで月額 5 万円はいくんじゃないでしょうか (自分はいくら払っていたか忘れました)。通勤手当もないので、必然的にチャリ通もしくは徒歩通勤になります。ただし、学振 PD の最大の魅力は上司のプロジェクトに縛られず、自分の好きな場所で好きな研究をできることですので、これは他の普通のポスドクにはない自由さです。

海外学振はそこそこ良いように見えますが、海外への引越し費用も出ませんし、配偶者が一緒に渡航する場合は配偶者は現地で労働できない場合が多いです。共働きの夫婦の場合、世帯収入で考えると海外学振は微妙な選択かもしれません。ただ、これまた好きな国、好きな研究者のもとで研究できるので、これは最大の魅力です。海外学振を経験した人の文句で一番多いのは、二年間の任期は短過ぎるというものです。現地で生活に慣れるのに数ヶ月はかかりますし、色々な事務手続きが多くて時間を消耗します。それが済んだと思ったら、もう次の職探しです。

おまけで、国立大学の助教の給料っていくらなのよと気になる人もいるでしょうから、最後まで読んでくれた人のために書いておくと、32 歳の名大の助教の初年度の年収は 600 万円ちょうどくらいでした。実際には着任半年後の 4 月から海外学振に出ているため、名大からの給料が減額されているので少ないですが、日本に居続けたと仮定すると 600 万ちょうどくらいです。これは住宅手当、賞与、扶養手当、大学院指導手当を含み、税と保険が引かれる前の金額です。震災復興なんたらで減額されているので、本当だったらもう少しだけ多いのかな。

PyVISA + NI-VISA + 32 bit Python を Mac で使う

(追記 2014.6.9) 最近の NI-VISA は OS X でも部分的に 64 bit 対応になっているので、通常使用の範囲であれば 32 bit の Python を無理やり使う必要はありません。
Python から USB 接続の実験装置を動かすときに、PySerial はよく使うんですが、VISA という規格もあって、PyVISA というので制御できます。GPIB と USB は備えてるけど GPIB を Mac で動かすのは面倒だし、かつその USB は PySerial で動かないしなんて装置があった場合、PyVISA を使うという手があります。

あと、LAN 接続も可能な機種だと PyVXI11 を使ったりなんてのも可能です。ただ、環境によっては IP 貰えなかったりすることがあるので、PyVISA を使うという解を持っているのは良いことです。

Mac の場合、まずは VISA の library が必要になります。Mac 用の VISA library は恐らく National Instruments (NI) が出しているやつしかなくて、NI-VISA をいうのを使うことになります。Mac 版の最新版は 5.4 です。

.dmg を落としてきて、Mac に install しましょう。10.7 と 10.8 に対応しています。10.9 は試していません。で、ちょっと問題があって、NI-VISA の Mac 版は 32 bit にしか対応していないので (10.8 のみ?)、PyVISA を呼ぶ Python は 32 bit のものを使わないといけません。でも PyROOT とかは 64 bit で動かしたいし、PyVISA のためだけに他の Python 関連のものを全て 32 bit にするのも敗北感があるので、PyVISA だけ 32 bit で動かしたい、と。

1. NI-VISA を入れる

さっきも書いたように、NI-VISAMac に入れます。/Library/Frameworks/Visa.framework/ に色々と入ります。

2. PyVISA を入れる

$ sudo easy_install pyvisa

これで PyVISA が入ります。

3. PyVISA + NI-VISA を試す

普通に MacPython を起動すると、64 bit のものが起動するはずです。32 bit のものを明示的に起動させるには、次のようにします。

$ VERSIONER_PYTHON_PREFER_32_BIT=yes python

さて、Tektronix の AFG3251 という function generator で実験してみます。

from pyvisa.vpp43 import visa_library
visa_library.load_library("/Library/Frameworks/Visa.framework/VISA")
import visa

afg3251 = visa.Instrument("USB0::0x0699::0x0344::C020398::INSTR")
afg3251.write("*IDN?")
print afg3251.read()

PyVISA が NI-VISA の library を自動で見つけてくれないため、明示的に visa_library.load_library で load する必要があります。これをやらずに import visa をすると、ちゃんと動いてくれません。

その後、VISA の接続に必要な USB の情報を与えてやると、その USB 機器に接続できます。AFG3251 の場合は、本体のメニューを操作すると "USB0::" という情報が出てきます。

後は RS232C の制御と同じような感覚でコマンドを送信するだけです。Delimiter などのややこしい設定は考える必要がありません。

ここここを参考にしました。

4. subprocess.Process

さて、これだと 32 bit の Python でしか動かないので、64 bit で動いている PyROOT と一緒に使うのは面倒です。ということで、subprocess.Process を使って別の process で動かします。Function generator のように低速な機器であれば、これで全く問題ありません。オシロのように転送速度が効いてくる装置の場合、PyVXI11 などを検討したほうが良いでしょう。


まずは、afg3251.py という script を用意します。これは単純に、第一引数を AFG3251 に送信し、返事を返すことを期待するコマンドであれば stdout にその結果を出力する動作をします。

#!/usr/bin/env python

import sys
command = sys.argv[1]

from pyvisa.vpp43 import visa_library
visa_library.load_library("/Library/Frameworks/Visa.framework/VISA")
import visa

afg3251 = visa.Instrument("USB0::0x0699::0x0344::C020398::INSTR")
afg3251.write(command)

if command[-1] == "?":
    sys.stdout.write(afg3251.read())

このファイルは chmod で実行権限を与えておいて下さい。

$ chmod +x afg3251.py

次に、process.py を用意します。これは思いっきりここの真似ですね。32 bit の Python を別 process で起動するため、os.environ に VERSIONER_PYTHON_PREFER_32_BIT を設定しています。これを設定しておけば、subprocess.Popen で別の Python を開いても 32 bit で起動してくれます。

import subprocess
import os

class AFG3251(object):
    def __init__(self):
        pass

    def excecute(self, command):
        os.environ["VERSIONER_PYTHON_PREFER_32_BIT"] = "yes"

        args = ["./afg3251.py", command]
        logfilename = {"stdout" : "./stdout.log", "stderr" : "./stderr.log" }
        logfileobj = {}
        mode = "w"

        for stream, log in logfilename.iteritems():
            try:
                logfileobj[stream] = file(log, mode)
            except IOError:
                print "Cannot open logfile: %s" % log
                sys.exit(1)

        subproc_args = { 'stdin'     : None,
                         'stdout'    : logfileobj['stdout'],
                         'stderr'    : logfileobj['stderr'],
                         'close_fds' : True,                 }

        try:
            p = subprocess.Popen(args, **subproc_args)
            del os.environ["VERSIONER_PYTHON_PREFER_32_BIT"]
        except OSError:
            print "Failed to execute command: %s" % args[0]
            sys.exit(1)

        ret = p.wait()
        stdout = open(logfilename["stdout"]).read()
        stderr = open(logfilename["stderr"]).read()

        return (stdout, stderr, ret)

afg3251.py 内部で発生した stdout の出力を process.py でそのまま受け取ることはできないので、一度 stdout.log に吐いています。AFG3251 からの応答を見たければ、このファイルを覗けば出力が分ります。

後は、好きなように改造するだけです。

Mavericks でやったこと、気付いたこと

X11

X11 を立ち上げると window manager が twm になってしまっていたので、XQuartz 2.7.4 を入れ直した。これで twm になる問題は解消。ROOT の build で libX11 が見つからないと怒られるのも、XQuartz の入れ直しで解消した。

ROOT

5.34/11 から Mavericks 対応になったので、build し直して入れた。5.34/10 も、Mountain Lion で build したやつはちゃんと動作してたっぽいけど、気持ち悪いので 5.34/11 を使うことに。

ds9

最初 ds9 が立ち上がらなかったけど、XQuartz の入れ直しでこれも立ち上がるようになった。

MacPorts

MacPorts 2.2.1 の Mavericks 対応のものが出たので、これで入れ直し。/opt は一度削除して、たいした手間ではないので、必要な package は全部入れ直すことにした。

入れたものは以下の通り。あんまり入れてない。

Mail.app

GmailIMAP 連携がわけの分からんことになった。以前は "All" (違うかも) だったか何かに入ってたメールが、ごっそり "archive" というところに持ってかれた。移動してないのもある。

全体

なぜか SSD の空き領域が 20 GB も増えてた。えーと、何を消去したんですかね。なんか要らないものを捨ててくれるのはありがたいんだけど、そもそも Mountain Lion って、それ単体だけでも 20 GB も無いんじゃないかと思うのだけど。

めっちゃスクロールがカクカクしてる。2012 の 15" Retina の 16 GB なので、性能としては問題ないと思うのだけど。

游明朝と游ゴシックはたいして良くない。ヒラギノも丸ゴ以外はいまいちなので、うーむ。

修士論文や夏の学校の集録や学振申請書を書く皆さんへ (書き方、注意点、心得)

適宜更新します。

目次

  • 0 はじめに
  • 1 図に関すること
  • 2 日本語全般
  • 3 引用
  • 4 概要 (abstract)
  • 5 添削や指導の依頼の仕方

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

レポートの組み立て方 (ちくま学芸文庫)

レポートの組み立て方 (ちくま学芸文庫)

0 はじめに

0.1 この記事の目的

2012 年度末に修士論文の添削を初めて真面目に担当し、論文全体についての助言をする以前の段階で、注意すべき点、して欲しい点が多々あることが分かりました。修士論文に限らず、これは学振の申請書、夏の学校の集録原稿、物理学会の講演概要など、修士学生が他の場面で日本語を書く場面でも同じことが言えます。毎回、毎年、同じことを注意するのは面倒ですし、「修士論文 書き方」などで検索して辿りつく人もいるでしょうから、注意すべき点をまとめて記事にします。

0.2 対象読者

僕のまわりにいる学生と日本中の修士課程の学生。LaTeX を使って修士論文を書く高エネルギー宇宙物理関係の学生を想定していますが、他分野の人、Word を使う人などでも参考になることはたくさんあると思います。

0.3 元ネタ

僕の大学院指導教員である牧島一夫先生がまとめられた「M2 の皆さんへ」という修士論文の書き方の指南書と、「科学英文のチェックマニュアル」に大きな影響を受けて同じようなものを書くことにしました。ただし、この記事は日本語文書限定です。

上記 2 つの文書は理系大学院生必読です。修論などを書き始めるに目を通すことをお勧めします。

ついでに LaTeX修論テンプレートも GitHub で公開しているので、参考にしてください。
修士論文 LaTeX テンプレート|名古屋大学宇宙地球環境研究所の理学系修士学生用

1 図表に関すること

1.1 caption について (LaTeX 限定)

LaTeX で図目次を生成させる場合は、目次に長い説明を入れないこと。例えば次のようにすると、図目次には「The 3rd EGRET catalog (Hartman et al. 1999, with modification)」ではなく、短い説明「The 3rd EGRET catalog」のみが表示される。

\begin{figure}
 \centering
 \includegraphics[width=14cm,clip]{fig/EGRET.pdf}
 \caption[The 3rd EGRET catalog]{The 3rd EGRET catalog \citep[with modification]{Hartman1999}}
 \label{EGRET}
\end{figure}

そもそも図目次や表目次を利用する読者というのは多くないので、書いている本人が特に必要と感じないのであれば、ページ稼ぎの技として使用するのは控えましょう。

1.2 図の位置 (LaTeX 限定)

LaTeX の figure 環境で、図の位置を h で指定しないで下さい。h の指定をしないでも、LaTeX がちょうどよい場所に図を自動配置してくれます。論文の図は原則としてページの上部に置くのが慣習になっています。

\begin{figure}[h] %この [h] は取る。LaTeX の参考書で h を指定する例が載っていても絶対に取る。
 \centering
 \includegraphics{fig/EGRET.pdf}
 \caption{caption}
\end{figure}
1.3 画像形式について (LaTeX 限定)

線画では可能な限り vector 画像 (PDF や EPS) を使い、bitmap 画像の場合は PNG、GIF、JPEG を使い分けて下さい。例えば回路図のように線と文字しかないものは PDF を、オシロ画像には PNG を、回路の写真には JPEG を使います。JPEG を使うのは原則として写真のみと思って下さい。逆に、写真を PNG などで保存することも滅多にしません。

最近は PDF や PNG をそのまま LaTeX に貼り込めるので、古い LaTeX の本などに書いてあるように、必ずしも EPS にする必要はありません。やり方は、以下の通りです。

まず、fig/hoge.jpg などを用意した状態で次のコマンドのどちらかうまく動くほうを terminal から実行します。そうすると、fig/hoge.bb もしくは fig/hoge.xbb というファイルが生成されます。

ebb fig/hoge.jpg
extractbb fig/hoge.jpg

次に、LaTeX ソースの先頭のほうに次の行を追加します。

\usepackage[dvipdfmx]{graphicx}

そして、普通に figure 環境で JPEG 画像を指定すれば表示されます。

\begin{figure}
  \centering
  \includegraphics[width=5cm]{fig/hoge.jpg}
  \caption[]{素晴らしい実験装置}
  \label{fig_hoge}
\end{figure}
1.4 図の説明について

図の説明 (caption) は簡潔である必要はありません。むしろ、図示されただけでは読者が分らない情報をそこでちゃんと説明して下さい。何か回路の写真を載せるとして、「図 1.1. 測定回路の写真」とだけ書くのではなく、「図 1.1. 測定回路の写真。左上にあるのが〜〜で、〜〜と接続されている。」のように、読み取って欲しい情報をちゃんと書いて下さい。その図の読み方を読者に丸投げするのは失礼です。

また、本文でゴチャゴチャと図の説明をするよりも、図の caption で説明をしたほうが良い場合が多々あります。例えば本文中で「黒実線は ADC 値の分布」と書くよりも、caption に書いたほうが効果的ですし、読者の目の移動量が圧倒的に減ります。

1.5 図の言及の仕方

本文で全く言及しない図と言うのはありえません。掲載する場合は、本文中で「図 1.1 で示すように」や「〜〜の結果を図 1.1 に示す」や「図 1.1 から明らかなように」などと必ず言及して下さい。これをしないとその図は存在する意味がありません。またその図を見ながら本文を読む必要がある場合には、どの図を見るべきかを指示してもらえないと読者はその図を眺めながら本文を読めません。

また、「宇宙線のスペクトルは冪乗で表される (図 1.1)」などと書くのではなく、「図 1.1 に示す通り宇宙線のスペクトルは冪乗で表される」のような書き方をするように、特にその図の初出時には注意して下さい。

1.6 caption の場所

図の caption はその図の下に入れて下さい。逆に、表の場合は表の上に入れます。この理由はしりませんが、そういう慣習です。

1.7 大きさ

印刷して文字が読めるように配慮して下さい。小さい文字や図の細部が読めないのは駄目です。修論のページ数は決まっていないので、のびのびと紙面を使って下さい。文書の形式が 2 columns の場合、1 column に収めようとせず、大きい図は 2 columns にまたがって表示して下さい。

1.8 他人の作った図の使用

原則として、あなたが発表する論文や集録ではあなたが作った図を使います。共同研究の場合に、どうしても他の人が作った図を掲載する必要がある場合は、先行論文などの出典を明記するか、図の提供者 (その本人が著作権を有している場合に限る) をきちんと載せるかします。そうでない場合、「この図は私が作りました」と嘘をつくことになります。またその図の著作権が既に出版社などに譲渡されている場合、適切な引用を行わないのは著作権の侵害になります。

また、論文を出版する際などに出版社に著作権が譲渡される場合、適切な引用をしないと、複数の出版社でその図に関する権利がぶつかり合ってしまうということも注意してください。

1.9 縦横比を変更しない

写真や図を使用するときに、規定フォーマットやページ数制限に収めるために、縦横比を元画像から変更する人がいますが、これはやめましょう。写真の場合は被写体が実際より歪んで見えますし、グラフなどの場合は文字が細くなったり太くなったりして可読性が下がります。

1.10 軸のラベル

こんなことは中学校レベルだと思うのですが、グラフの縦軸、横軸の説明のない図を平気で出してくる学生がいます。その物理量は何か、単位は何かを必ず図中に書いてください。

1.11 スクリーンショットを使って他人の図を引用しない

修士論文で散見されるのですが、他人の論文から図を引用するときに、論文 PDF を開いた状態でスクリーンショットを撮り、それを修士論文に貼り付ける人がいます。多くの図はベクター形式で作られているため、このようにスクリーンショットにしてしまうとビットマップ画像に変換されてしまいます。また印刷の質に耐えない解像度になり、文字や図が潰れてしまいます。

宇宙・素粒子関係であれば多くの論文が arxiv に乗っていますので、Download > Other formats > Source と進んで画像ファイル一式を落としてきましょう。落としたファイルは tar.gz で圧縮されていますが、拡張子がつかない場合は手動で .tgz などの拡張子をファイル名に追加してください。また論文 PDF から該当箇所をコピーもしくはクロップするという方法もあります。

1.12 無駄にたくさんの罫線を表に使わない

表を作るときに Excel 方眼紙のように、あらゆる場所に罫線を使う人がいますが、ほとんどの縦線も横線もなくて大丈夫です。

↓こういう表ではなくて、

------------------
| Fruit  | Price |
------------------
| Apple  |   150 |
------------------
| Orange |   150 |
------------------

↓こういう表にしましょう。

----------------
 Fruit  | Price
----------------
 Apple  |   150
 Orange |   150
----------------

2 日本語全般

2.1 略語

PMT や ADC などの略語は、必ず初出の場所で「光電子増倍管 (Photomultiplier Tube、PMT)」などと定義して下さい。「Cherenkov Telescope Array」のような語の場合は日本語訳がありませんが、PMT のように日本語で書けるものはちゃんと日本語を書きます。

英単語の場合は「CTA (Cherenkov Telescope Array)」ではなく「Cherenkov Telescope Array (CTA)」と書きます。これは前者の書き方をすると、英文添削では必ず間違いを指摘されます。あくまで省略しない形が正式名称であり、丸括弧で囲んだ略語は「以下〜〜と略す」という意味だからです。

また、なんでもかんでも略語を使って論文中で使いまくる人がいますが、分野違いの人が読む可能性のある文章では略語の多用は避けるべきです。普通の人はどこでその略語が定義されたか、元の意味がなんだったかを全て覚えていられません。略語の多すぎる文章は相手の負担を増やし、また理解の妨げになると思ってください。特に申請書などの場合は分野外の人が審査員に回ることが多々ありますので、注意が必要です。

2.2 回りくどい表現を避ける

「温度測定を行った」などではなく、「温度を測定した」などの簡潔な表現のほうが読みやすく、また伝えたいことが伝わりやすくなります。

2.3 定性的な表現を避ける

「フィッティングの結果が悪くなった」などの定性的な表現ではなく、「フィッティングをしたところ、chi2/ndf が〜〜から〜〜へと悪化した」のように定量的に書いて下さい。これは著者の主観的な判断を示すのではなく、読者が客観的に数字を評価できるようにするため必須です。また、数値で比べてみると案外悪化していなかったりすることもあるので、自分のやっている作業の定量的な確認にも役立ちます。

2.4 単位

「20 GeV」を「20GeV」などと繋げて書いたり、LaTeX 中で「$20GeV$」と書いて「GeV」が斜体にならないようにすること。数式中で普通の文字を使いたい場合は、「$20\,\mathrm{GeV}$」や「$k_\mathrm{B}$」とします。例外として、「°」と「%」は直前の数字との間にスペースを空けません (このルールは国、時代、分野によって異なる可能性あり、最近はスペースを入れるのが主流かも)。「25°」や「95%」は、「$25^\circ$」や「$95$\%」と LaTeX で入力します。

また数値と単位の間に改行が含まれてしまうと読みにくくなる場合があるため、LaTeX の場合は「20~GeV」と書くことで「20」と「GeV」の間に改行が入るのを防ぐことができます。本文を修正するたびに改行に遭遇するかどうかは変わるため、常に「~」使って入力する癖をつけましょう。

Word や Pages を使って文書を作る場合、LaTeX の「~」は使えません。その代わり Mac であれば option + space で改行されないスペースが入力できます。Windows だと control + shift + space です。

2.5 斜体

一部の論文誌では、人工衛星や望遠鏡の名前に斜体を用います。この理由が何なのかはよく知らないのですが、船の名前や飛行機の名前 (例えば TitanicEnola Gay) には斜体を使うという慣習があり、それが人工衛星にも引き継がれたのだと思われます。また、人物名の Fermi とフェルミガンマ線宇宙望遠鏡の Fermi を区別することも可能になります。

Fermi や Chandra という文字を斜体にするときに LaTeX では「\textit{Fermi}」のようにします。たまに「$Fermi$」として数式中で変数が斜体になる LaTeX の仕組みを利用する人がいますが、数式と文中の斜体は異なります (実際に入力して、文字間隔を確認してみてください)。

また、変数名の添え字が変数でない場合は、その添え字に斜体は使わないでください。例えば $x_i$ などの i には斜体ですが、$E_threshold$ は $E_\mathrm{threshold}$ と書いて、E のみが斜体になるようにします。

2.6 丸括弧の使い方

丸括弧は極力使わないこと。「高エネルギー天体(ブラックホール中性子星など)」ではなく、「ブラックホール中性子星などの高エネルギー天体」と書きます。

2.7 鍵括弧の使い方

原則として、鍵括弧は以下の用途に使います。

  • 文を引用するとき
  • 本来の意味と異なる意図を含ませる時。これまでは「常識」とされてきた、のような書き方。
  • すざく」などの平仮名文字を前後の平仮名から区別したいとき。もしくは、「すざく」は本来の朱雀とは違うことを意識したいとき。
2.8 二重鍵括弧の使い方

同様に、以下の用途に使います。

  • 書名を書く時。『宇宙線』と書いた場合、それは宇宙線を指すのではなく小田稔著の書名になります。
  • 鍵括弧中でさらに鍵括弧を使いたい時。
2.9 記号

日本語で書ける記号は日本語で書く。例えば「20 GeV 〜 100 TeV」や「20 GeV – 100 TeV」は「20 GeV から 100 TeV」と書きます。「コンプトン散乱のエネルギー + 光電吸収のエネルギー」ではなく「コンプトン散乱のエネルギーと光電吸収のエネルギーの和」と書きます。

2.10 受動態と能動態

基本的に日本語の論文は能動態を積極的に使うべきです。主体が誰なのかを明確にする効果があります。「三日間に渡り温度変化が測定された」では誰がやったのか分かりませんが「三日間に渡り温度変化を測定した」であれば、主語がなくても著者がやったと分ります。

また、特に研究に参加したばかりの学生はまるで他人事のように感じているためか、「〜〜計画が国際共同で進められている」と受動態で書く場合が多数見受けられます。もっと自分が研究の中心なんだ、重要人物なんだ、自分が主体になって進めているのだという意識を持って (もしそうでないならば具体的に実行に移してください)、「我々は〜〜計画を国際共同で進めている」のように能動態に書き換えてください。

2.11 やたらとカタカナ語や英語を混ぜない

例えば「望遠鏡のコスト」は「望遠鏡の建設費用」とごく普通の日本語で表現できます。カタカナでしか対応する語句がない場合、もしくは日本語訳があまりに一般的でない場合を除き、日本語の文章は日本語で書きます。また英語をむやみに混ぜる人もいますが、これも一般的な日本語訳があり、英語で表現する必要性が全くない場合は日本語を使ってください。

2.12 主語と述語と目的語

あまりに長い文を書くと、その文中で主語と述語と目的語が離れ過ぎる場合があります。文を短くするか、それらが適切な位置関係に来るように工夫して書く必要があります。また長い文を書いているうちに主語や述語自体を書き忘れたり、主語が入れ替わったりする場合がよくありますが、絶対にこれは駄目です (日本語の常識として主語が省略出来る場合を除く)。

2.13 ハイフンとマイナス

マイナス記号とハイフンは異なります。メールなどでは「-20℃」と書きますが、LaTeX の場合これをやると、「-」がハイフンとして表示されます。$-20$℃と書けば「-」がマイナス記号になります。

また、天体名で例えば RX J1713.7−3946 などは、ハイフンではなくマイナスを使います。これは 1713.7 と 3946 がハイフンでつながっているのではなく、赤経 17h 13m 33s 赤緯 -39° 45' 36'' の場所にいるということを示しており、マイナス記号が使われます。

2.14 ハイフンとエンダッシュ

画面での違いが分かりにくいかもしれませんが、「-」と「–」と「—」は異なる文字で、それぞれ用途も違います。名前は、ハイフン、エンダッシュ (en dash)、エムダッシュ (em dash) です。Mac の場合、エンダッシュは option + - で入力し、エムダッシュは option + shift + - で入力します。LaTeX の場合、それぞれ「-」「--」「---」と入力します。

本来エンダッシュは比較的使う機会が多いのですが、見た目で違いがあまり分からないため、またメール文書などでは細かいことを気にしないため普通のハイフンで代用されることが多いです。ただし、英語の論文などではちゃんと違いに気をつけましょう。次の場合はハイフンではなくエンダッシュを使います。

  1. 数字の範囲などを示す場合。例: 20 GeV–300 TeV、300–800 nm
  2. 違うものを指す単語を連結させる場合。例:Davies–Cotton 光学系 (ただし、very-high-energy や two-year-old のように、単に前後の単語を繋ぐ場合はハイフンを使用する)

英語文章中のハイフンの使い方で注意したいのが、複合形容詞 (compound adjective) を作るときです。例えば「宇宙線」は「cosmic rays」と英語で書きますが、「宇宙線フラックス」を英語にするときは「cosmic-ray flux」とハイフンを使用します。これは「cosmic」が形容詞であるため、ハイフンを入れないと「ray」を修飾することになってしまうからです。「cosmic-ray flux」は「宇宙線の」フラックスという意味であり、「cosmic-ray」とハイフンを入れることによって複合形容詞になります。

同様に「超高エネルギー」は「very high energy」となりますが、「超高エネルギーの」と形容詞として使う場合には「very-high-energy」となります。ただし、「極高エネルギー」は「ultra-high energy」と書く場合があります。これは「very」が副詞なのに対し、「ultra」が接頭辞であるための違いです。複合形容詞として使う場合は「ultra-high-energy」とするのがやはり正しいように思いますが、これはなぜか「ultra-high energy cosmic rays」のように書くことが多いようです (どなたか理由を教えてください)。

2.15 「など」

「シンクロトロン放射などの過程」のように「など」を使って省略せず、数が限られており書くのが簡単な場合は「シンクロトロン放射、制動放射、逆コンプトン散乱」のように列挙したほうが良いです。

2.16 順接の「が」

「が」には順接と逆接の両方の使い方があります。順接の「が」は読者を混乱させる場合があるので、使わないようにしましょう。例えば「これまで温度測定を行ってきたが、今後とも継続する必要がある」のような書き方をすると、「が」の後に逆接が来ることを期待してしまいます (例えば「これまで温度測定を行ってきたが、今後は湿度測定を…」のような期待をする)。

2.17 本文中の数式

「dN/dE」のような簡単な数式は $$ 環境を LaTeX 中で使わなくても書けてしまいますが、N や E は斜体にすべきなので、必ず $$ 環境を使って $\mathrm{d}N/\mathrm{d}E$ と書きます。

2.18 「ch」

「ch」というのは channel の略なので、日本語で「分解能の悪い ch が存在する」のような表現はおかしいです。「チャンネル」とちゃんと書きます。「Ch 1 は分解能が悪い」は問題ないです。

2.19 何について書いてるのか明確にする

「精度が悪化する」とだけ書くと何の精度か分かりません。「エネルギー決定精度が悪化する」や「フィッティング精度が悪化する」のようにちゃんと書きます。「感度の向上」や「強度の低下」なども「ガンマ線検出感度の向上」や「ガンマ線強度の低下」のように、何を書いてるのか明確にします。

また、「信号を取得する」「データを転送する」のように漠然と記述されているのを散見しますが、どのような信号なのか、どのようなデータなのか (波形情報か、電圧値か、画像か) をちゃんと説明してください。書いている本人は何について述べているのか分かっているでしょうが、読者には分かりません。

2.20 英数文字と日本語の混在

日本語文章を書いているときに、句読点とコンマ・ピリオドが混在したり、半角の丸括弧と全角の丸括弧が混在している場合が多々あります。原則として日本語の文章中では、「、」「。」もしくは「,」「.」を使い、「,」「.」は使いません。また「(」「)」ではなく「(」「)」を使います。LaTeX を使っていれば、丸括弧の左右の余白は適切に調整してくれます。

特に、英単語を日本語文中で列挙している場合にこのミスが目立ちます。例えば「HESS, MAGIC, VERITAS といった望遠鏡」のような記述をするときに、アルファベットを打った勢いでそのままコンマを打ってしまうようです。

※と言いつつ、この blog の記事では「(」「)」の代わりに「 (」「) 」を使っています。理由は、世の中の web browser の組版が美しくないからです。LaTeX組版は綺麗なので、ちゃんと使い分けましょう。

2.20 「数十」と「数 10」

ガンマ線業界では「数十 GeV」や「数百天体」という表現をよくしますが、これを「数 10 GeV」や「数 100 天体」と書かないで下さい。「数 100000 天体」とか「太陽質量の数 100000000 倍」になってくると、なにかおかしいなと分かるはずです。

2.21 文中の文献番号の場所

文献番号が末尾にくるとき、「〜〜と報告されている [3]。」のように書きます。「〜〜と報告されている。[3]」とは書きません。

2.22 Double quotation の向きを揃える (LaTeX 限定)

LaTeX 中で「"this is a pen"」のように書きたい時、「``this is a pen''」と書きます。「``」は「`」を二連続で、「''」は「'」を二連続です。面倒ですが、こうしないと PDF にしたときに向きが揃いません。

2.23 タイトル中の Times の英語とゴシック体の日本語の混在 (LaTeX 限定)

例えば jarticle がスタイルとして指定されている原稿を書く場合、「\title{Cherenkov Telescope Array の装置開発}」と書くと「Cherenkov Telescope Array」だけフォントが Times になり、「の装置開発」はゴシックで表示されて統一感がなくなる場合があります。これを回避するには、次の行を先頭のほうに書いておくと解決します。

\usepackage[deluxe]{otf}
2.24 RMS標準偏差

主に ROOT を解析ソフトウェアとして使っている人の中に、RMS標準偏差の区別がついていない人がたくさんいます。これは PAW の時代から引きずっている悪習です。統計用語として違う概念ですので、区別して使って下さい。放射線放射能の違いには敏感な人が多い業界なのに、不思議な話です。

我々の業界でヒストグラムを作るとき、もし教員や先輩が「RMS」という言葉を発したら、それは標準偏差の間違いです。ROOT はバージョン 5 まで RMS という間違った用語を使っていましたが、バージョン 6 からは Standard Deviation (Std. Dev.) という言葉に直っています。GetRMS は GetStdDev です。

2.25 人名の姓名の途中での改行

集録などで著者名を書く時に、姓名の間に改行が入ってしまっている場合を散見します。例えば「奥村 曉」であれば「村」と「曉」の間に改行が入っていたり、「A. Okumura」であれば「A.」と「Okumura」の間に改行が入っていたりです。このように、姓名の間に改行が入るのはマナー違反とされています。

Word や Pages のようなワープロソフトや LaTeX の場合、それが人名だとは機械が判断できないため、改行しやすい場所で自動的に改行してしまいます。ここでは改行しないでね、と機械に伝えるためには、LaTeX の場合は「A.~Okumura」や「奥村~曉」と入力します。

また、Mac の Pages の場合は姓名の間の space の代わりに、option + space を入力します。そうすると自動改行がされなくなります。

2.26 「~」と「〜」

日本語文章で数字の範囲を書く時に、全角の「〜」の代わりに半角の「~」を使う人がいますが、これは違う文字です。後者はチルダと呼ばれる記号であり、範囲を表すために使う記号ではありません。そのため、英語文章で「300~650 nm」のように書くのは間違いです (日本人にしか通じません)。

2.27 上付き文字

「km²」などと書く時に「km^2」と書く人がいますが、LaTeX であれば「km$^2$」と書き、ワープロソフトであれば上付き文字の使用方法を調べて下さい。

2.28 なんでもかんでも「データ点」と総称しない

これは言葉の意味をよく考えずに書いているのだと思いますが、「得られたデータ点の統計誤差は」のような書き方をよく目にします。「データ点」は図中の測定値を表す点のことであり、実験であなたが得たものは「データ点」ではなく測定値です。また二次元、三次元の図では「データ点」は二つもしくは三つの座標を持つので、「データ点の誤差」のような書き方をされるとどの値の誤差なのか分からなくなります。

2.29 「における」の不適切な使用

物理学会の講演題目などでよく見かけるのですが、「における」という言葉の不自然な使い方をする学生が多いです。例えば「CTA 計画における大口径望遠鏡の開発」といった表現です。CTA 計画以外では大口径望遠鏡 (これはこの場合固有名詞です) の開発はやっていませんので、「における」は不自然です。「における」は複数ありうる中から特に限定した場所を指すときに使います。「日本における東京タワーの建設」は日本語としておかしいですよね、それと一緒です。

「における」の使用意図としては、「○○実験で使用する△△装置」という意味を持たせたいときに「○○実験における△△装置」という書き方をする場合が多いようです。この「△△」が仮に一般によく使用される装置、例えば光検出器などであれば、「○○実験における光検出器の使用」などとしても日本語としてはおかしくありません。

2.30 句読点

物理系の修士論文のような日本語の横書きの科学技術文書の場合、句読点は「、」と「。」の組み合わせ、もしくは「,」と「.」の組み合わせを使用してください。公文書では「,」と「。」の組み合わせを使うという指針が国から出されていますが、歴史的な理由からか科学技術文書では「,」と「.」が多く使われるのです。一般的には「,」と「.」の組み合わせが使われますが、私個人の好みは「、」と「。」です。あくまで好みの話なので、文書全体で統一されていれば好きなもので構いません。

2.31「講演」と「公演」

学会発表は「公演」ではなく「講演」と書きます。辞書で意味の違いを調べてください。

2.32「チャンネル」という言葉に「ピクセル」や「画素」という意味はない

よく「XX チャンネルの焦点面カメラ」のような表現を見かけますが、「チャンネル」には「ピクセル」や「画素」という意味はありません。「チャンネル」とは情報を伝達する経路のことです。我々の業界では、通常読み出し回路の数などを数える場合には「チャンネル」を使いますが、これは波形が信号線を通って読み出し回路に繋がっているからです。

2.33 体言止め

体言 (名詞) で文を終わる、いわゆる「体言止め」をしないこと。科学文書は文芸作品ではありません。

2.34 過去形と現在形

実験の説明は原則として全て過去形で述べてください。行った実験の事実は全て過去の出来事であり、現在形でも未来系でもどちらでもありません。一般論を述べる場合は現在形で構いませんが、自分の踏んだ実験手順をまるで料理のレシピのように現在形で書いてはいけません。

2.35 斜体と立体 (LaTeX 限定)

数式中や本文中の変数名は斜体にします。LaTeX の場合、「速度 v」と書くのではなく、「速度 $v$」と書きます。

また、変数の添え字は、それが変数であるか、何かの言葉であるかによって斜体と立体を使い分けます。例えば複数の電圧の測定値があるような場合は「$V_i$」と書き、i も変数であることが分かるようにします。しかし例えば電圧の最大値は「$V_\mathrm{max}$」のようにして、max の部分が斜体になるのを防ぎます。

2.36 わかりやすい変数名にする

光電子増倍管のゲイン M」や「望遠鏡の有効面積 F」のように、その変数の意味する内容を推測できない変数名をつけてはいけません。多くの場合、英語の頭文字を使い、例えば「光電子増倍管のゲイン G」や「望遠鏡の有効面積 A_eff」のようにします。

2.37 「次」と「以下」を使い分ける

「以下」というのは、そこから後ろ全てという意味です。例えば卒業式などで「以下同文」という使い方をします。「次」というのは、その場所の次に書いてある箇所を指します。したがって、次の行に出てくるような式を指す場合は「次の式」のように書きます。

3 引用

3.1 引用と転載

引用と転載は異なる概念なので、注意して下さい。他の人の論文の図を自分の修論に掲載する場合、その図があくまで自分の論文に対して主ではなく従である必要があります。また、どこからか図を持ってきたら、必ずその出典を明記して下さい。Web にある画像は URL を載せて下さい。

日本語で「引用」と言う場合、英語の quote と citation の 2 種類の意味がありえます。大学などの学位論文作成の注意書きには、よく quote のほうの引用の説明が書かれています。しかし宇宙物理などの分野では citation のほうの引用しかほとんどしないでしょうから、「ちゃんと文献を引用しろ」と指導教員に言われたら、それは citation のことだと思って下さい。

他の先行研究から図を借りてくるような行為は、quote に入ります。

3.2 論文の引用 (citation)

自分が考えたことでない記述は、原則としてその原典を書くべきです。例えば「近年では Fermi 衛星の活躍により超新星残骸での陽子加速の証拠がほぼ明らかになった」のような記述をするときは、該当論文を書いて下さい。一方で、「宇宙線の謎はその発見以来 100 年にわたり」のようなごく一般的な共通認識は、わざわざ引用する必要はありません。

3.3 盗用と無断転載 (≒コピペ)

こんなことをわざわざ書きたくありませんが、他人の論文や Wikipedia などから文章を盗んでくる人がたくさんいます。学部のレポートではなく、修士論文の話です。人の書いた文章を参考にするのはもちろん構いませんし、学問の発展と営みというのはそういうものです。しかし、コピペはいけません。修士論文だと最悪の場合、学位の取り消しになり修了できない、進学できない、就職できない、という結末が待っています。

ばれないだろうと思って万引きのようにコピペをするのでしょうが、コピペは読者にばれます。「コピペルナー」のような専用ソフトを使わなくてもばれます。ただし、指導教員や審査員がそれほど真面目に読まない場合は、コピペに気がつかない場合が多々あります。またコピペは絶対にやってはいけないという指導が徹底されていないため、はっきり言って今の日本の大学院ではコピペが蔓延っています。報道に出てくるのは氷山の一角でしょう。

今までに気がついたコピペの発見には以下のパターンがあります (修論に限りません)。

  • つい 1 週間前に読んだ論文と似た表現だなと感じた (某大学助教の学会申し込みの英文概要)
  • コピペまではいかないが、Wikipedia のある項目の内容に非常に似ており、しかもその項目は僕が書いたものであった (某大学の修士論文)
  • 日本語の表現として明らかにおかしく、原文は英語であったものを拙い翻訳をしたように見えた。しかも、その原文を書いた本人は僕だったので、ばればれ (某大学の修士論文)。
  • 「てにをは」や文末だけが不自然なので、100% のコピペを防ぐために 2% くらいだけ自分で変更して逆におかしくなった (某大学の修士論文)
  • 業界内では通常は使わないと思われる変な表現があったので、そんな用語があるのかと Google で検索したら他の公開されている修士論文からのコピペであった (某大学の修士論文)
  • 他の場所はボロボロなのに、その箇所だけやけに上手にかけている
  • やけに上手に書けているせいで、自分の修論と関係のないこと (コピペ元では必要な情報だったのでしょう) まで盛りだくさん。
  • その場所だけ文体が違う
  • イントロ部分が研究室、もしくは実験グループで代々引き継がれている
  • 図の引用元が明記されていない。なぜかというと、他人の修論からコピペしたのに、コピペ元でもその図の引用をちゃんとしていなかったため、原論文が分からない。
3.4 引用した文献はちゃんと読む

当たり前のことですが、自分が引用する文献にはちゃんと目を通しましょう。全文熟読する必要はないですが (場合によりけり)、その論文の趣旨を勘違いして引用していたり、その論文が出典だと思っていた図が、違う論文から持ってきたり図だったりすることもあります。

よくあるのは先輩や他の人の書いた修論を参考にし、「あ、この図は使えそうだな」と考えて図の引用のみをする場合です。イントロなどで使える綺麗な図、よくまとまった図が欲しいだけで、元文献なんて読みもせず、download もせずに図だけ貼り付ける人がいます。

3.5 自己剽窃について

コピペが駄目というのは、何も他人の文書を盗用 (剽窃) するのが駄目ということに限りません。過去に自分が発表した文章や図をそのまま他で流用することも、場合によっては禁止されています。これを自己剽窃と言います。

なぜ駄目かというと、主に理由がふたつあります。ひとつは同じ内容で二重投稿をしないようにすること (ひとつの研究成果を異なる雑誌などに投稿すること。成果の水増しになるし、査読者などの負担を無駄に増やすことになる。)、また著作権の問題があります。

二重投稿が駄目なのは感覚として当たり前だと思いますが、著作権についてはややこしいです。このあたりは別記事に書きます。

3.6 孫引き

あなたの使用したい図の初出が文献 A だとします (原典)。その図を他の論文やネット記事 (文献 B) が引用しているのをあなたが見つけるとします。このとき、あなたは図の引用元として文献 B を使用してはいけません。このような行為を孫引きと呼びます。あなたが引用元として明示するベきは、文献 A です。

4 概要 (abstract)

4.1 概要とは

概要はあくまで本文全体のまとめです。概要に既に書いたから本文には書かないで良いとか、概要に書いてあるのに本文に書かれていない記述があるということは、ありえません。概要は概要のみを取り出しても意味が通じるように書き、また本文は本文のみで取り出しても意味が通じなくてはいけません。

したがって、例えば概要で「Photomultiplier Tube (PMT)」と書いたとしても、本文中で PMT を使う時には初出の箇所で再度定義する必要があります。

4.2 概要をいつ書くか

概要は普通、修士論文の先頭 (表紙の直後) に来ます。そのためか多くの学生が、修士論文を書き進める前に概要に着手することがあるようです。しかし修士論文の筋書きや実験、計算結果などが全て揃っている場合を除き、修士論文を書き始めた時点でその結果や結論までが見えているのは稀でしょう。結論のあたりまで執筆が進んだ時点で、概要を書き始めるので良いと思います。

ただし、提出日当日に結論を書き終え、それから概要を書き始めるのでは間に合いません。概要を書くのに半日以上はかかると見込んで予定を立てましょう。

自分の職場だと、修士論文本体に加えて要旨の提出も求められます。これの作成作業についても、概要と同じことが言えます。

5 添削や指導の依頼の仕方

5.1 依頼をする前に

指導教員や先輩などに論文の添削をする前に、まずは最低限、ここに書かれていることを自分で直してから提出しましょう。論文の添削というのは全体の構成や論理展開、実験や考察の不足、間違いの指摘などを行うことが主な目的です。決して、「数字と単位の間にはスペースを入れるように」なんて下らない指摘をするために時間を浪費するためのものではありません。

一度ちゃんと気をつけて書くようになれば、書いている最中につまらないミスをすることはなくなります。書いている本人と添削する側の時間をお互いに無駄にしないために、ここに書かれていることは厳守しましょう。

5.2 時間に余裕をもって

第一草稿を真面目に添削をすると、例えば 50 ページの修論を読むのに 5 時間はかかります。4 ページの夏の学校の集録でも 1 時間はかかります。

論文の添削は大学教員の業務の一環なので、もちろんどんなに時間がかかろうが添削をします。しかし、添削以外にも大学教員は多くの仕事を抱えています。そのため、締切直前に添削依頼が来ても対応することができません。仕事の合間を縫って、睡眠時間を削って、家族との時間を割いて、添削せざるをえなくなります。

締切直前に添削依頼がくると、余裕をもって依頼が来た時に比べて当然添削にかけられる時間が減少します。そうすると十分な添削ができませんし、書き直しの指示を反映してもらう時間も無くなってしまいます。

添削結果をもらいたい三日前くらいには、依頼をするようにしましょう。

5.3 ボスキャラの前に雑魚キャラを使う

指導教員に添削してもらう前に、先輩やポスドク助教といった、雑魚キャラに添削をしてもらいましょう。

5.4 指摘された箇所は全て修正してから次の添削に出す

添削をしていると、「なぜ前回指摘した箇所の複数がまだ直っていないのか」と思うことが多々あります。これは本当に時間の無駄ですし、馬鹿にされているのかとさえ思います。指摘された箇所は全て直してから次の添削に回しましょう。

もし、修正する必要がないと思って修正しなかった場合、その理由を説明してちゃんと伝えましょう。添削者の思い込みなどで、見当違いの指摘が来る場合もあります。おかしいなと思った指摘に対しては、「〜〜の論文には〜〜と書いてあるため、現在の文章で問題ないと思います」のようにちゃんと説明をすることが大切です。

5.5 どこを直したかを分かりやすくする

大幅な改訂ではなく、細かい改訂の場合は、どこをどのように変更したか分かるように、もしくは伝えるようにしましょう。何ページもある PDF を渡されて、前回の版と何が違うのかが明示されていないと、添削する側は全文を読み直さなくてはいけません。

LaTeX を使っている場合は latexdiff を使うと便利です。

latexdiff version1.tex version2.tex > diff.tex
platex diff.tex
dvipdfmx diff.dvi

のようにすると、PDF 中に差分が分かりやすく表示されます。latexdiff は標準では入っていないので、LaTeX のパッケージと別途インストールが必要と思います。

5.6 謝辞にも可能なかぎり目を通してもらう

修士論文の最後に謝辞を書く場合がほとんどだと思いますが、ここが添削の対象になることはほとんどないと思います。自分も謝辞の添削まではしていません。また、学生本人の感謝の気持ちなどを書く場所であり、執筆の最中に指導教員に読まれるのが気恥ずかしいというのもあるのか、修士論文の提出直前に謝辞を追加する場合が多々あるようです。

ただし、謝辞の中で人名や職階の記入を間違えていたり、事実誤認が含まれている場合が多々あります。せっかく謝意を示す文章の中で、その相手の氏名を入力し間違えていては、大変失礼にあたります。可能であれば、謝辞も先輩などに確認してもらいましょう。

また謝辞で「指導教員」を「指導教」と書いたり、「助教」を「助教」としてしまう間違いがよくあります。国立大学が法人化された後は「教員」と呼びます。また昔の「助教授」は「准教授」に変わり、「助手」が「助教」と「助手」の二つに細分されました。

5.7 添削依頼をする場合は行番号をつける (LaTeX 限定)

添削をメールでやり取りする場合もあると思います。添削側は「XX 行目から YY 行目の日本語がおかしい」のように行番号を指定して突っ込みを入れたくなる場面が多々あるもので、この場合、各行に行番号が振ってあると大変便利です。Word のやり方はしりませんが、LaTeX の場合は .tex ファイルの先頭のほうで次の行を追加しておきましょう。

\usepackage{linen}
\linenumbers

もちろん、最終版を提出する際には行番号を出さないように注意してください。

5.8 「??」を無くす (LaTeX 限定)

LaTeX で図表や章節を参照するときに、\ref コマンドを使って「図 2.3」などと自動的に表示させることができます。しかしこのコマンドの使い方が間違っていたり参照先が無かったりすると、「図 ??」と表示されてしまします。

このような表示が残っているものを添削に回すというのは、自分で本文の確認をしていない状態で他人に添削依頼をするということですので、順序が間違っています。まずは自分で読んで、体裁や日本語でおかしなところがないか確認してください。