奨学金延滞率と大学入試難易度

最近、朝日新聞の記事などで、日本学生支援機構(JASSO)の「奨学金」を返済できない元大学生の話が頻繁に取り上げられるようになりました。JASSO の「奨学金」は、返還義務のある教育ローンが多くを占めるため、卒業後に十分な収入がないと返済することができなくなる場合があるためです。

日本学生支援機構(JASSO)は、2017 年に大学別の奨学金延滞率等の情報を開示しました。機構や国の狙う真意は分かりませんが、少なくとも彼らは回収率を上げたいのは間違いありません。情報を出すことによって「駄目な大学」を世に知らしめたいとか、借り手自体の数を抑制したいとか、そういうことでしょう。

この公開情報は https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet から大学ごとに取得することができます。何百もある大学ごとに一つずつ見るのは大変なため、Python で自動化して全部落としてきました。必要な人は Google Spreadsheet から閲覧してください。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1YrBLC5du_S1lMDIAbTTRed_YPFqKPFSUsSUM3j3qTGI/edit?usp=sharing

奨学金 借りるとき返すときに読む本

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ブラック奨学金 (文春新書)

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以前に東洋経済がこのデータを独自集計し、延滞率のランキングなるものを記事にしていました。その上位校は僕の知らない大学が多く占めており、また有名大学(=難関大学)は比較的下位に見られたため、奨学金の延滞率と大学入学時点での学力には相関があるのだろうという推測ができました。

ただし、これはあくまで相関であり、学力が低いと返済能力や収入が低くなるという因果関係を必ずしも示しません。例えば次のようなことも考えられます。

  • 難関大学に進学する学生は家庭が相対的に高所得な場合が多く、親に頼れば返済に困らないのかもしれない
  • 上位校は国公立大学の占める割合が高く、授業料が低いために借金の額が少なくて済んでいるのかもしれない
  • 大学入学時点で制度の仕組みを把握しておらず、卒業後の返済能力を超えて借りすぎたのかもしれない
  • 督促状などの文書に対する読解能力の違い、またその深刻さの受け止め具合が、学力に関係するのかもしれない

ここではこのような交絡の議論には踏み込まず、公開されている延滞率([C]/[A])と、ベネッセの公開している各大学の入試偏差値の相関のみを見てみましょう。偏差値が 55 を下回るあたりで、綺麗に奨学金の延滞率(過去 5 年間の貸与終了者数のうち、延滞が 3 ヶ月以上の者の割合)が上昇して行くのが分かります。ちなみに、偏差値 69 のところで延滞率の高い大学は、国際教養大学です。

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縦軸の誤差棒は二項分布の誤差(標準偏差)、横軸は最も高い偏差値の学部・学科と、最も低いものの範囲を表しています。

奨学金 借りるとき返すときに読む本

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(2018/02/19 追記)
こちらの 2/17 の記事に、ちょうど至誠館大学の学長の声が掲載されていました。
www.news-postseven.com

「本学は児童養護施設出身の学生を積極的に受け入れており、延滞率が高いのは、卒業後も実家から通勤できない、奨学金の返済に困っても親に一時的な支援も頼めないというケースが多いのではないかと考えている。しかし、日本学生支援機構に延滞者の内訳を尋ねても回答を拒否されるため、対策を立てるのが難しい」

との説明があり、そのような社会的、経済的な困窮者に対して進学の道を開くこと、経済的な支援をすることは、国としても、僕のような大学教員としても守り続けなくてはいけません。

大学入試時点で学力が低いものに金を貸すなという意見もあるでしょうが、18 歳の時点で学力が高いということは、それまでに十分な教育を受けられる環境にあったということです。それは本人のやる気や潜在能力を必ずしも反映しません。大学に限らず、より教育機会を均等に受けられるような努力が継続的に必要だと思います。