国立大学で助教から講師へ昇格した場合の給料の計算

先日、助教から講師へ昇格しました。名古屋大学の内部昇格制度を利用しての結果です。この制度は任期付助教テニュア審査(無期転換と講師昇格)が数年前に名古屋大学で導入されたため、既に雇用されていた任期無し助教にも、講師昇格への機会を設けたものです*1*2

研究者という職業

研究者という職業

  • 作者:林 周二
  • 発売日: 2004/09/01
  • メディア: 単行本


この記事では、「大学教員って実際に何歳くらいで給料どれだけもらえるものなの?」という研究者志望の若手が参考にできるようにするためのものです。公募案内でよく目にする「待遇:本学の給与規定による」というのは、この記事に解説するような計算に則っています。「給料いくらですか?」なんて公募を出している教授本人に聞いてもそもそも分かりませんし、なかなか聞きにくいでしょう。

多くの国立大学では給料に関する規定が公開されているはずで、地域手当や寒冷地手当などの差はありますが、およそ同様の計算手法で算出できると思います。私立大学は伝え聞くところでは同等から最大 2 倍くらいじゃないかと思いますが、その大学によります。

注意して欲しいのは、「年俸制」と呼ばれる制度に大学教員の給与体系が徐々に移行していることです。この記事の計算方法は月給制で、およそ 10% の金額が退職金に加算されていきます(私立大学や海外への転職のため自己都合による退職だと半額くらい)。年俸制になると退職金は出ず、扶養手当・住居手当もないと思います(大学によるようで、名古屋大学の承継職員の年俸制助教だと扶養手当と住居手当がつくそうです)。

1. 講師って何?

ここで「講師」と書いているのは常勤講師のことです。最近よく「高学歴ワーキングプア」のような言葉で取り上げられる例もある非常勤講師とは異なる概念です。国立大学の講師は、職階としては准教授と助教の間に位置します。

実は自分もよく分かっていなかったのですが、講師とは何かは、学校教育法の第 92 条に書かれています。

第九十二条 大学には学長、教授、准教授、助教、助手及び事務職員を置かなければならない。ただし、教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には、准教授、助教又は助手を置かないことができる。
○2 大学には、前項のほか、副学長、学部長、講師、技術職員その他必要な職員を置くことができる
(略)
○6  教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○7 准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の  優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○8  助教は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の     知識及び能力を   有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
(略)
○10 講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。

これを読むと、大学に講師という職を置くことは必ずしも必要でありません。また実際の運用はともかく、教授、准教授、助教は職務としては「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」ことであり、職務の差がありません。違いは青字で示した、知識、能力、実績の差のみです。

講師の職務は教授または准教授に準じるようですが、書かれている職務内容は助教から教授まで差がないので、おそらく知識、能力、実績が準じていて、それに応じた職務を行えということなのでしょう。

また講師は、大学や部局によっては大学院の指導教員になれるはずですが、自分の職場では准教授以上が指導教員をやることになっていると理解しています(規則としては見つけられなかったので、慣例?)。あと、演習や実験以外の講義も持てるようになりますが(これも大学などによって違うはず)、うちは研究所なので基本的に講義を担当する必要がありません。

2. 給料

さて、本題です。以前に助教の給料については本 blog 内でも書きました。
oxon.hatenablog.com
うちの分野のポスドクの給料の相場も記事にしています。
oxon.hatenablog.com

助教から講師へ昇格した場合、名古屋大学ではいくつかの規則に基づいて給与支給額の変更が行われます。基本的に他の国立大学でも同じような計算のはずです。

特に初任給や昇級(講師は 3 級、助教は 2 級)については本給細則に規定があります。

第12条 新たに職員となった者の本給は,前条の規定により決定された職務の級の号給が別表第6に定める初任給基準表(以下「初任給基準表」という。)に定められているときは当該号給とし,当該職務の級の号給が同表に定められていないときは同表に定める号給を基礎としてその者の属する職務の級に昇級し,又は降級したものとした場合に第22条第1項又は第23条第1項の規定により得られる号給とする。(略)

第22条 職員を昇級させた場合におけるその者の本給は,その者に適用される本給表の別に応じ,かつ,昇級した日の前日に受けていた号給に対応する別表第7に定める昇級時号給対応表の昇級後の昇給欄に定める号給とする。
2 前3条の規定により職員を昇級させた場合で当該昇級が2級以上上位の職務の級への昇級であるときにおける前項の規定の適用については,それぞれ1級上位の職務の級への昇級が順次行われたものとして取り扱うものとする。

これらに加え、以下に説明する昇給の仕組み、および先の助教の初任給についての計算を組み合わせると、准教授や教授の初任給も計算することができるはずですので、実際に計算してみましょう。

2.1. 昇級

まず、昇給ではなく昇級の説明です。大学教員の基本給は級と号によって決定されます。級は職階に対応し、助手が 1 級、助教 2 級、講師 3 級、准教授 4 級、教授 5 級となっています。またそれぞれの級はさらに号で細分化され、勤続年数(博士取得後からの経験年数)が増えると大きい号に増えていき、それに応じて号給が支給されるという仕組みです。

僕の場合は、2018 年 2 月時点での級号は 2 級 61 号でした。2012 年 9 月に助教として着任したときは 2 級 39 号です(着任時の級号の決定 = 初任給の決定はこちらの記事に書きました)。勤務状況が良好な場合、1 年間に 4 号ずつ増えるのが標準です。

助教から講師に上がると、当然 2 級から 3 級になります。しかし号がいくつになるかはどうでしょうか。これは、上記引用文中にある名古屋大学職員本給細則の「別表第7」に「ハ 教育職本給表(一)昇級時号給対応表」として定められています。これを見ると、2 級 61 号から 3 級に上がると、35 号になることが分かります。給与明細をみると、実際には 3 級 36 号給になっていたのですが、なぜ 1 号給高いのかはよく分かりません。まあ、大雑把な計算としてはこれで良いわけです。

2.2. 本給

この号給に対応する本給は、教育職本給表(一)に記載があります。354,800 円が本給の月額です。

しかしこれだけではありません。職員の給与には様々な手当が追加されることが名古屋大学職員給与規程に書かれています。自分に関係するところだけ赤くしました。

(職員の給与)
第3条 職員の給与は,本給及び諸手当とする。
2 前項の諸手当は,扶養手当,管理職手当,副理事手当,総長補佐手当,地域手当住居手当通勤手当,単身赴任手当,特殊勤務手当,超過勤務手当,休日給,夜勤手当,宿直手当,管理職員特別勤務手当,本給の調整額,初任給調整手当,義務教育等教員特別手当,教職調整額,期末手当勤勉手当,期末特別手当,主任指導手当,学位論文審査手当,英語講義促進手当,入試手当,安全衛生業務手当,看護部長補佐手当,病院勤務職員特別調整手当,クロス・アポイントメント手当及びクロス・アポイントメント勤勉手当とする。

このうち超過勤務手当は、出張などで土日に業務をしたものの、振替休日が取れずに代休を取った場合に支払われる労働基準法で定められた手当です。代休が発生しなかった場合は支払われないので、この記事では省きます。

以降で説明する各項目の計算は、人によって異なります。あくまで、僕の計算で説明していることに注意してください。

2.3. 本給の調整額

名古屋大学職員本給の調整額支給細則に定めがあります。

これまでは助教だったため「二 教授,准教授又は講師のうち,大学院研究科の修士課程を担当する者又は助教のうち,大学院研究科に在学する学生の指導に従事する者」に該当して調整数が 1 だったのですが、博士課程も担当する講師の扱いになったため「一 教授,准教授又は講師のうち,大学院研究科の博士課程を担当する者」に相当し調整額が 2 になりました。

調整基本額は講師の場合 11,900 円と同細則に定められているため、これに調整数 2 を乗じて、月額 23,800 円が支給されます。

本給 354,800 円 + 調整額 23,800 円 = 378,600 円

となるはずですが、「本給等支給額」として明細に記載されているのは 379,700 円で少し計算が合いません。

2.4. 扶養手当

扶養範囲の配偶者は月額 6,500 円、15 歳未満の子は 10,000 円が支給されます。自分の実際にもらっている扶養手当はこの金額より 500 円少ないのですが、よく分かりません。

2.5. 地域手当

(地域手当)
第14条 地域手当は,本学に在籍する職員に支給する。
2 地域手当の月額は,本給,本給の調整額,扶養手当,管理職手当,副理事手当,総長補佐手当及び教職調整額の月額の合計額に,100分の15を乗じて得た額とする。

短いので引用しました。本給、本給の調整額、扶養手当の和の 15% が地域手当になります。これは大学の所在地によって異なり、また大学によっては都市手当と呼ぶこともあります。東京 23 区では 20% と高額ですが、はっきり言って家賃や食費の相場からすると、名古屋の 15% は得なほうじゃないかと思います。

(本給 354,800 円 + 調整額 23,800 円 + 扶養手当 26,000 円) × 0.15 = 60,690 円

しかし、実際に明細を見るとこれも 60,855 円となっていますが、これは「本給等支給額」が自分の計算からずれているのが原因です。

2.6. 期末手当と勤勉手当

これらはいわゆる賞与に相当します。

期末手当は、本給、本給の調整額、扶養手当、地域手当の合計の 122.5% もしくは 137.5% の額が、それぞれ 6 月と 12 月に支給されます。

勤勉手当は同様に、100% の額が 6 月と 12 月に支給されます。

したがって、年間での合計は 460% となり、すなわち「年間 4.6 ヵ月分の賞与」という言い方が分かりやすいでしょう。ここまでの計算を踏まえると、2,146,153 円になります。

2.7. 住居手当

ものすごい安い借家に住んでいたり持ち家の場合を除き、名古屋大学では月額 27,000 円が支給されます。

2.8. 入試手当

これはセンター試験や二次試験の試験監督を担当した場合に支給されます。センター試験の場合、2 日間の合計で 18,000 円です。これも大学によって金額が異なります。

2.9. 外部資金獲得手当

科研費などの外部資金を獲得して間接経費を得た場合に、その年間獲得額に応じて報奨金が出ます。例えば年間 1000 万円の直接経費を獲得した場合、科研費だとその 30% にあたる 300 万円の間接経費が大学に入ります。これに 2.7% を乗じた額 (この場合 8.1 万円) が 5 万円を超えていれば、報奨金として年に 1 回支給されます。つまり、直接経費が 617 万円/年を超える科研費を獲得している場合、年間 5 万円は報奨金がもらえます。

*1:ただし、色々と状況が変わったので、新しく名古屋大学に任期付助教として着任する人は注意してください。

*2:これは名古屋大学独自の取り組みであって、他の国立大学では助教から講師への内部昇格は一般的ではないと思います。