海外学振を含む、研究者の長期海外出張中の納税義務

素人情報ですが、素人なりにイギリスとドイツの税理士に相談した内容に基づいています。2015 年 2 月時点での情報です。税に関する決めごとは更新頻度が高いので、最新情報は各自で調べて下さい。また「研究者」と言っても、国家公務員の場合は扱いが異なります。間違いのご指摘大歓迎です。

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

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レポートの組み立て方 (ちくま学芸文庫)

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日本から支払われる出張手当が所得税の課税対象外と勘違いしていませんか?

日本の所得税法上、出張手当は所得税の課税対象外です。従って日本の研究機関に在席する研究者が国内もしくは海外出張を行う場合、支払われる宿泊費や日当に所得税はかかりません。これは出張経験者であれば経験的に知っていると思いますが、大学から振り込まれる日当に源泉徴収はありませんし、確定申告をする必要もありません。

ただし、これは税法上、日本の居住者扱いである場合に限ります。日本の居住者であるかどうかは年間 1 年以上引き続き日本国内に住むかどうか、住所を有するかによって判定されます。したがって、出張期間が 1 年間を超える場合は住民票を残していたとしても日本で非居住者扱いとなり、滞在国での納税義務が生じると言えます。

ただし、居住者の判定方法は国によって異なり、例えばイギリスやドイツでは183 日以上 (365 日の半分) をどこで生活の拠点にしているかによって居住者かどうかが決定されます。したがって、滞在国によっては日本と滞在国の双方で居住者扱いされる場合が存在し、このような時にどちらの国で課税されるかは以下に述べる租税条約内の取り決めによります。

例えばもし日本の家を引き払ったり住民票を抜いた状態でイギリスの研究機関へ海外出張で年間半年以上滞在する場合や、海外学振の特別研究員として海外の研究機関に 2 年間丸々在席する場合などは、その人は滞在国で税法上の居住者 (英語だと resident であり、citizen とは異なる) になり、滞在国での所得税納税義務が発生します。厳密には滞在国によって法律が異なるのですが、日本人研究者が研究目的で滞在する多くの国と日本政府は条約を結んでいます。日米租税条約、日英租税条約、日独租税条約といったものがそれです。これら租税条約は二国間の両方で課税されるという憂き目に遭うのを回避するのがひとつの目的であり、またより重要なのは両国ともに納税を回避され「課税の空白」が生じるのを防ぐことです。

この居住国の決定ですが、「恒久的住居」、「利害関係の中心的場所」、「常用の住居」そして「国籍」の順に考えて、どちらの国の「居住者」となるかを決めます。したがって日本に持ち家や借家があって住民票もそのままであれば、1 年以内の出張の場合は日本で納税義務が発生すると思われます。

さて、出張手当は日本の税制上課税対象外と書きましたが、租税条約の締結相手国では課税対象となる場合がほとんどです。少なくとも英独では課税対象となっています (ただし、ホテル代など出張にかかる費用として支払った額は控除される)。したがって日本以外の国の居住者となる場合は、日本の大学や日本学術振興会から出張手当を受け取っていても、それは滞在国で課税対象になります。またもちろん、滞在国で納税義務がある場合は日本での給与にも課税されます。

「日本学術振興会 海外特別研究員 遵守事項及び諸手続の手引」という冊子には実際、以下の注意書きがあります。

(3)滞在費・研究活動費への課税について
海外特別研究員は,派遣期間中は日本国内の非居住者となること,ならびに滞在費・研究活動費は旅費として支給されることから,日本国内では課税の対象外となります。ただし,派遣国に おいて課税される場合があるため,各自において確認し、必要な手続を行うようにしてください。

「各自において確認し」と簡単に書かれていますが、これは結構骨の折れる作業です。民間企業の駐在員と違い、滞在先での確定申告まで大学や日本学術振興会は面倒を見てくれません。現地で税法をちゃんと自己調査するか、現地の税理士に相談する必要があります。

日本の給料で源泉徴収されている場合

日本の研究機関から長期出張で海外に滞在する場合、相手国の居住者扱いなっているにも関わらず、日本の給料から所得税源泉徴収されている場合があると思います。この日本の所得税は、支払う必要のない税金です。代わりに滞在国で税金を納めて下さい。「日本で所得税が天引きされているから滞在国では払わなくていいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、支払い義務のない日本の税金を納め、さらに滞在国で脱税をしているだけです。

日本の居住者扱いでないのに所得税が天引きされた場合、税務署に後日還付申請をすることができます。もし天引きされないようにしたい場合は、源泉徴収義務を免除することができるので、日本の所属研究機関に相談しましょう。日本学術振興会の特別研究員 PD が長期出張する場合も同様です。

二年間の滞在であれば、所得税の支払い義務がないって本当?

嘘です。恐らく、古い租税条約に基づいた古い情報がネットに残っているだけです。日米租税条約や日英租税条約では、「教授条項」と呼ばれる特別な規定がありました。この規定では、二年間を超えない期間、研究や教育を目的とした滞在者は租税が免除されるという我々には嬉しいものでした。しかしこの「教授条項」は現在の多くの租税条約で消滅しており、日英、日独、日瑞などの租税条約から取り除かれ、日米租税条約では条件が厳しくなりました (さらに近日中には教授条項の完全削除された新条約が批准される予定です) ので、相手国の居住者となるような滞在をする人は課税対象です。「教授条項」なる研究者のみが喜ぶ仕組みはもう存在しないと思ってください。我々は通常の労働者と税法上も区別ありません。詳しくは、「租税条約 教授条項」などで検索してください。

欧米の税金は高い?

海外に住むと日本人が感じることのひとつに、所得税や消費税 (もしくは付加価値税) が高いというのが挙げられます。しかしイギリスでは所得税の中に保険料などが含まれています。一方、ドイツのように国によっては日本の住民税に相当するものが存在しなかったりする場合もあるので、所得税率だけでは日本の税額と比較できません。そのため、納税額がどれくらいなのかを出国前にちゃんと把握しておかないと、可処分所得の計算が色々と狂うことになります。

例えば海外学振でイギリスに派遣される場合、年間の出張手当は 525 万 6000 円 (約 £28,500、2015/2/24 現在)です。これを勘違いして所得税がかからないと思っていると、学振 PD よりは給料が良いように感じますが、決してそうではありません。日本であれば控除が約 100 万円、年金や保険で年間 40 万円程度がさらに控除だとして、年間所得税は 35 万円くらいです。

一方で、イギリスだと £10,000 のみが控除で、いきなり税率が 20% かかるので、68 万円くらいが税金になります。ただし、保険や年金はここに含まれるので、実質日本と同じ程度の額でしょうか。ただ日本と変わらないと言っても、海外学振採用時にこの税額もちゃんと計算に入れておかないと、大幅に計算が狂うでしょう。現地での家財道具の調達、引越しにかかる自己負担費用など考えると、海外学振の給与は決して高くはないのです。

社会保障協定

租税条約と別に、社会保障 (医療保険や年金) に関する二国間の取り決めというのもあります。例えば日英社会保障協定であったり、日独社会保障協定だったりです。これは社会保険料の二重払いを回避するための仕組みで、基本的には納税者を守るためのものだと思います。

例えば日本の国立大学で雇用されているのに長期海外出張する場合、出張者は日本の給料から文科省共済にかかる金額を天引きされているはずです。これは医療保険 (短期共済) と年金 (長期共済) に分かれますが、このうち後者の支払いを滞在国で免除することができます。これを現地での確定申告のときに適用するには、原則として出張開始前に、「日独社会保障協定の適用証明書」などを共済組合から発行してもらう必要があります。

半年以上の長期出張をする人へ

もし滞在国の居住者扱いとなり納税義務が相手国で発生する可能性がある場合、まずは所属する日本の研究機関の事務や、日本の税務署の担当者に相談してみましょう。この時点では相談費用が発生しませんし、日本の税務署は非常に丁寧に答えてくれます。ただし、税務署が滞在国との租税条約や滞在国の税制をちゃんと理解しているとは限りません。

もし滞在国で納税義務が発生する (可能性が高い) ようであれば、現地の税理士にちゃんと相談して納税をちゃんとしましょう。イギリスの某税理士事務所は、個人の確定申告の費用は税込 £480 でした。ドイツの某事務所は税抜き €400 でした。ただしこれは確定申告にかかる費用であり、初回相談は無料でした (納税義務があるかどうかの判定は、この初回相談で解決できると思います)。まともに確定申告 (tax return) をやろうと思うと、それだけで丸一週間は時間を潰します。そして時間を潰しても素人では自分の結論に確信が持てません。税理士に相談したほうが、時間的にも精神的にも得だと思います。

控除

一口に税金がかかると言っても、税率が国ごとで異なるのはもちろんのこと、控除対象がどれだけ存在するか、特に出張中は何が経費として認定されるのかというのは国ごとによって違います。例えばイギリスの場合、日本と違って扶養控除はありません。また海外出張で必要となった引越し代金などは控除の対象となるので、例えば税率 20% で引越し代金が 10 万円かかったとしたら、2 万円の所得税は支払う必要がないことになります。

これら計算は複雑です。具体的にイギリスやドイツへの出張でどう計算したかは、そのうち書こうと思います。

Eclipse CDT から clang-format を使って書式整形をしよう

そろそろ物理屋さんも vim とか Emacs でソフト開発するのやめませんか? Eclipse とかにしませんか? ということで、ソフトをバリバリ書いてる人は Eclipse CDT (宇宙・素粒子系の物理屋Java 使わない) をご使用中のことと思います。

LLVM/Clang実践活用ハンドブック

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Eclipse4.4 完全攻略 (完全攻略シリーズ)

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さて、Eclipse CDT など IDE の便利な機能にコードの自動整形 (formatter) があります。自分も最近は複数人でソフトの共同開発をすることが多くなってきたので、Google の coding style で統一しようという話になったのですが、意図的に特殊な整形を自分でしていた箇所まで整形し直してくれちゃうものだから、これは不便でしょうがない。

例えば、以下のコードは意図的にスペースを多用しています。

CI[ 5] = D[13] ^ D[12] ^ D[11] ^ D[ 9] ^ D[ 8] ^ D[ 5] ^ D[ 4] ^ D[ 0] ^
         C[ 0] ^ C[ 4] ^ C[ 5] ^ C[ 8] ^ C[ 9] ^ C[11] ^ C[12] ^ C[13];
CI[ 6] = D[14] ^ D[13] ^ D[12] ^ D[10] ^ D[ 9] ^ D[ 6] ^ D[ 5] ^ D[ 1] ^
         C[ 1] ^ C[ 5] ^ C[ 6] ^ C[ 9] ^ C[10] ^ C[12] ^ C[13] ^ C[14];
if (asic == 0) {
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel,      channel,      enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 1) {
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel + 16, channel + 16, enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 2) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel,      channel,      enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 3) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel + 16, channel + 16, enable ? 0x1 : 0x0);
}

これに Eclipse CDT で自動整形をかけるとどうなるかというと、Google スタイルの場合はそれぞれ次のようになります。読めやしませんね。

CI[5] = D[13] ^ D[12] ^ D[11] ^ D[9] ^ D[8] ^ D[5] ^ D[4] ^ D[0] ^ C[0]
    ^ C[4] ^ C[5] ^ C[8] ^ C[9] ^ C[11] ^ C[12] ^ C[13];
CI[6] = D[14] ^ D[13] ^ D[12] ^ D[10] ^ D[9] ^ D[6] ^ D[5] ^ D[1] ^ C[1]
    ^ C[5] ^ C[6] ^ C[9] ^ C[10] ^ C[12] ^ C[13] ^ C[14];
if (asic == 0) {
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel, channel, enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 1) {
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel + 16, channel + 16,
      enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 2) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel, channel, enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 3) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel + 16, channel + 16,
      enable ? 0x1 : 0x0);
}

実は EclipseJava を書く場合には次の記法でコードを「保護」することができます。off/on で囲まれた箇所は、自動整形が無視されます。

// @formatter:off
System.out.println("Hello World!");
// @formatter:on

しかし Eclipse CDT ではこの機能が実装されていないため (Java に比べて色々と貧弱)、Eclipse の標準機能だけでは C++ のコードに自動整形をかけると悲しいことになります。さて、じゃあどうやって自分の手動整形を保護するかというと、外部の formatter と Eclipse plugin を使って解決します。

clang-format を入れる

clang-format とは、その名の通り Clang に付属する formatter です。コマンドラインから動作し、C/C++/ObjC のファイルを整形することができます。ただし、OS XXcode を入れても付属してきません。以下の方法で自分で build します。ここでは、ver 3.7 以降 (近日公開される予定) を入れます (ここらへん参照)。バイナリの配布されている 3.5 では、以下の説明の機能は動作しません。

$ svn co http://llvm.org/svn/llvm-project/llvm/trunk llvm
$ cd llvm/tools
$ svn co http://llvm.org/svn/llvm-project/cfe/trunk clang
$ cd ../..
$ cd llvm/projects
$ svn co http://llvm.org/svn/llvm-project/compiler-rt/trunk compiler-rt
$ cd ../..
$ ./configure  --enable-optimized
$ make -j 8
$ sudo mv Release+Asserts/bin/clang-format /usr/local/bin/

これで、/usr/local/bin に clang-format が入ります。他のものは一切必要ありません。OS X に入っている標準の Clang が 3.5 でも、clang-format は単体で動作するので、Clang 自体を汚す危険もありません。

CppStyle を入れる

次に、clang-format を Eclipse で使うための plugin を導入します。https://github.com/wangzw/cppstyle の説明の通りですが、以下のようにします。

$ sudo curl -L "http://google-styleguide.googlecode.com/svn/trunk/cpplint/cpplint.py" -o /usr/local/bin/cpplint.py
$ sudo chmod a+x /usr/bin/cpplint.py

次に http://wangzw.github.io/CppStyle/updateEclipse の Help → Install New Software で追加したあと Eclipse を再起動し、Preference → C/C++ → Code Style → Formatter から Code Formatter を CppStyle (clang-format) にします。そのままにしておくと、Google スタイルが適用されます。

さて、clang-format では手動で整形した箇所を保護する機能があります。以下のようなコメントを追加することで、off/on の間に挟まれた領域は,clang-format の整形が適用されません。めでたしめでたし。繰り返しますが、Clang 3.5 の clang-format では動作しません。

if (asic == 0) {  // clang-format off
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel,      channel,      enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 1) {
  WriteRegisterPartially(0x4D, channel + 16, channel + 16, enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 2) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel,      channel,      enable ? 0x1 : 0x0);
} else if (asic == 3) {
  WriteRegisterPartially(0x4E, channel + 16, channel + 16, enable ? 0x1 : 0x0);
} else { // clang-format on

SOCKS プロキシを使って学内 (社内) 限定ページに接続する

学内ネットワークに接続している場合にだけ閲覧可能な、学内限定ページというものが世の中には存在します。大学に限らず、民間企業でもそういうものが存在するでしょう。名古屋大学の場合は全学の事務連絡や給与明細の閲覧がこれに該当し、自宅で仕事しているとき、出張中のときに非常に不便です。また学外からだと論文の閲覧もできません。

解決方法は以下のようにいくつか存在しますが、今回は SOCKS プロキシを使う方法をまとめておきます。知っている人には当たり前の情報かもしれませんが、複数の同業者がこれを知りませんでした。

  1. VPN を使う。ただし、名古屋大学は全学の VPN を用意してくれていないので駄目。
  2. SSH で学内のサーバに接続し、Firefox などを X で飛ばす。ただし、海外出張中の場合 (=遅延時間が長い) や回線が細い場合には X を飛ばすのは速度面から現実的ではない。
  3. VNC で画面を飛ばす。海外出張中の場合は、X を飛ばすよりは体感速度が圧倒的に優れるが、それでもまだ遅く、firewall の設定等も必要。
  4. VNC と同様だけど、Mac の場合は Back to My Mac (どこでも My Mac) を使って学内の Mac に接続して画面を飛ばす。Firewall の設定を気にしなくて良い場合が多いものの、Back to My Mac を使えない外部環境があったり (例えばレスター大学の eduroam)、接続先が反応しない場合がある。
  5. SOCKS プロキシを使う。簡単で早い。

用意するもの。

  • OS X の動いている Mac (別に Windows でも Linux でも同様にやれるので、"SOCKS Linux" などでググってください)
  • 学内に存在する SSH サーバ

さて、やることは簡単で、学内サーバに外から SSH で入れるものに接続します。ただし、-D という option をつけてやることで、SOCKS を使った port forwarding が可能になります。

$ ssh -D 1080 MY_ACCOUNT@foo.bar.ac.jp

  このあと、Mac の System Preferences から Network → Advanced… → Proxies で SOCKS Proxy を入にし、SOCKS Proxy Server の欄を 127.0.0.1:1080 にしておきましょう。

以上の作業で、SSH の接続している間は学内からネット接続をしているように見えるはずです。

ただし、SSH の接続が切れたのに SOCKS Proxy が動作したままだと、ネット接続ができなくなります。また GlimmerBlocker を使って広告ブロックをしている場合は Web Proxy (HTTP) が入になっているため、SOCKS とぶつかってしまうようです。そのため、SOCKS Proxy を入にするときは Web Proxy (HTTP) を切に、またその逆のときは入にという作業を手でやらなくてはいけないため面倒です。

そこで、OS X の networksetup コマンド使って shell から操作しましょう。

Automatic SOCKS proxy setup through SSH connection ...

自分の場合は Web Proxy (HTTP) の切り替えも自動でやりたいので、少し改造した script を使っています。

gist16c55d8b451b431848c0

この networksetup コマンドは /usr/sbin にあって、sudo じゃないと走りません。いちいちパスワードを聞かれるのも面倒なので、必要な場合は visudo で /usr/sbin/networksetup に実行権限を与えておきましょう。

$ sudo visudo 

として、

# For SOCKS proxy

YOUR_ACCOUNT ALL=(root) NOPASSWD: /usr/sbin/networksetup

とでも追加しておきましょう。

物理実験のエラーロギングに Boost.Log を使ってみる

最近 Cherenkov Telescope Array (CTA) のデータ収集 (DAQ) 用のライブラリを C++ で書いている。自分は物理実験屋であってプログラマではないので、あんまり高級なことはやらないのだけど、色々と作業を楽にするために平均的な物理実験屋よりは新しいものを使いたがる傾向にある。

CHEC-M. A Compact High-Energy Camera (CHEC) Prototype for the Cherenkov Telescope Array (CTA) Small-Sized Telescopes (SSTs)

このライブラリを書き始めた当初、エラーログの管理をどうするかな、というのが検討事項のひとつに挙がった。まあ、エラーの出力を標準エラーやテキストファイルに書き出すだけなので難しいことではないのだけど、以下の要求を満たす必要がある。

  1. ユーザが簡単に使えること。
  2. エラーレベルが複数に分かれていて (今回の場合は Debug/Info/Warning/Error/Fatal の 5 種類)、目的に応じて出力レベルの切り替えが出来ること。
  3. エラーの発生時刻も自動で記録すること。
  4. 出力先を標準エラーにしたり、テキストファイルにしたりできること (もしくは両方)。
  5. マルチスレッドでちゃんと動くこと。
  6. 車輪の最発明をしたくないので、既存のライブラリを使う。ただし、開発が今後 10 年間は継続すると見込まれること。

で、Boost.Log を使うことにしました。Boost 自体はこのページに辿りつく人には説明する必要がないかもしれませんが、C++ の巨大なライブラリ群です。Boost で採用されたライブラリが C++11 で採用されていたりします。Boost.Log は Boost に正式採択されたのが 2010 年なので、比較的新しい部類に入ります。

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特任助教を公募します、ただし名古屋大学出身者限定な

いわゆる「ポスドク問題」として博士学位取得者の就職状況が騒がれる中、名古屋大学ではここ数年にわたり非常に面白い取り組みをしています。二年前にこの事実を知ったとき、いち研究者として怒りが込み上げてきました。二年間かけて熱冷ましをしてみましたが、やはり看過することはできないため、ご紹介します。 

平成27年度若手育成プログラム(YLC)教員募集のページを見てみましょう。この公募は、名古屋大学が文理問わず学内全体で特任助教を 10 名程度採用するものです。それだけであれば、京都大学の「白眉」にも見られるように、別に珍しい取り組みでも何でもありません。

この公募の恐ろしいところは、「女性枠」に並んで「学内枠」という聞いたことのない枠があるところです。つまり、名古屋大学出身者以外応募できません、ということです。

以下に募集要項の応募資格の箇所を抜粋します。

A・B)共通事項

①年齢満 35 歳以下 (平成 27 年 4 月 1 日時点。ただし、医学系研究科博士課程修了者は満 37 歳以下)

名古屋大学在籍教員が推薦する者(採用予定者の受入部局の長及び受入教員)

複数の応募資格を有する場合は、該当する全ての枠に応募可能としま。

ポスドク経験を有することが望ましい。

A)学内枠

名古屋大学大学院博士後期課程又は名古屋大学大学院博士課程の修了者(博士学位取得者(平成 27 年 3 月末時点取得予定者を含む)。

・博士課程在学中もしくは修了後に、海外留学経験(おおむね1年以上)を有する 者又は採用期間中もしくは期間終了後速やかに留学すること(受入部局がその実施について最大限の努力をすることを求めます)。ただし、文科系分野については、 海外留学経験は必須ではないものとします。

B) 女性枠

・大学院博士課程の修了者(博士学位取得者(平成 27 年 3 月末時点取得予定者を 含む)。なお、海外留学経験(予定)は必須ではないものとします。

※女性枠は学内応募も可能とします。

名古屋大学在籍教員が推薦」というのは少し引っかかりますが、募集要項の前半は至って普通ですし、海外経験を要件に入れるというのも「スーパーグローバル」的に重要でしょう。問題なのは名古屋大学大学院博士後期課程又は名古屋大学大学院博士課程の修了者」に限定しているところです。

国立大学法人、その中でも旧帝大を初めとする研究大学は、多種多様な背景を持った優秀な研究者を採用して研究成果を上げるための組織です。男女の差別、国籍や民族の差別、そしてもちろん、出身大学によって採用の判断をすべき場所ではありません。

その大学で教育した大学院生を博士号取得者として社会に送り出し、名古屋大学に限らず日本中、世界中の大学や研究機関で研究させることが重要です。またその逆も然りで、色々な組織の出身者を取り込んでいくことで、文化の交流、優秀な層の獲得、大学の研究・教育機関としての質の向上が見込まれると信じられています。

にも関わらず、名古屋大学のような日本を代表する大学のひとつが、学内出身者限定の公募を行うというのは一体どういうことでしょうか。何度も正当化するための理由を考えてはみましたが、どうにも思いつきません。例えば「名古屋大学でしか研究を行えない特定の優れた分野を継続させる」のような理由であれば、採用時の志望動機として考慮すれば良いわけですし、また他大学出身の名古屋大学在籍中のポスドクも応募できたって良いわけです。また仮に「出身者に限定することで母校に対する愛を育む」という理由であったとしても、名古屋大学の学部出身者は含まれない理由が分かりません。博士課程から特任助教まで、一貫したキャリア形成を名古屋大学が担うという目的だとしても、一般的には同じ研究機関にとどまり続けることは不健全だと学術分野では見なされています。

そうやって考えてみると、この公募はポスドク問題を名古屋大学限定で解決する、つまり自分のところの博士号取得者のみを救済するという施策にしか見えないのです。

この公募は昨年度もありました。その前も同様にありましたが、二年前は募集要項が非公開で学内でしか情報が回っていなかったため、僕が名古屋大学に着任して初めてこの公募のことを知ったくらいです (全く「公」ではないですね)。

(以下、2014.10.24 追記)

名大法学部の大屋教授の tweet、ちょっと意味が分からない。

 

「ドクター後キャリアを支援」というのがおかしい、というのが大前提。また高等研究院の特任助教をやるとなぜその出身者の教育に繋がるのかも全く分からない。一般的に同じところにとどまるのは悪と見なされている。なぜなら教育上悪いから。なので「教育が主眼」というのは、全くもっておかしい。

また、名大でこの特任助教をやったからって特別に教育機会を得られるわけではない。普通のポスドクや特任助教と何も変わらない。だから「教育が主眼」なんて言葉に何の意味もない。

  「カネ出してヨソから」ではなく、同じ金を出すなら身内限定よりもちゃんとした公募にしたほうがより優秀な層が集まるでしょ、という話。これは世界常識だし、全く安直な策ではなく、誰でも分かる当然の話。なので「後者が絶対的に正しい」とかじゃなくて、この人の前提が間違っている。

 ポスドクや特任助教に限らず、内部昇格が前提でない助教だってあるし、任期ありなしは今関係のない話。「公募で外に出すための制度」は博士課程のうちに終えるべき。

大学院生、ポストドクターのための就職活動マニュアル

大学院生、ポストドクターのための就職活動マニュアル

 

 

学位論文のコピペの責任は誰が負うべきか、学位剥奪の前にすべきこと

修士論文や博士論文といった学位取得論文にコピペが見つかった場合、誰が責任を負うべきか。これは論文の著者たる学生本人が第一義に責任を負うのは当然である。しかし、そのようなコピペを堂々と書かせてしまうような指導教員や大学にも、かなりの問題がある。 

小保方氏の博士論文以外にも、早稲田大学の該当研究科ではたくさんのコピペ博士論文が発見されている。これは小保方氏個人の倫理観欠如と言うよりも、その研究科ではコピペがある種の伝統になっていたと思われる。

このような悪しき「伝統」が早稲田特有、バイオ系特有のものかというと決してそんなことはなく、他の分野、他の大学においても特に修士論文では散見される。実際、先輩や他人の書いた修論や論文からコピペをするという不正を、自分は複数の大学で見たことがあるし、自分の経験は全て物理学の分野である。

自分の発見した不正行為に関して言えば、学生本人たちに罪の意識は低い。何故かというと、それが悪いことなのだという教育をちゃんと受けていないし、先輩もやっていることだからだ。そして、指導教員や審査員が真面目に学位論文に目を通さないばっかりに、このようなコピペ行為が明らかになるのは、残念なことに彼ら以外の読者が目を通したときなのである。

多くのコピペ行為は、その発見が困難なものではない。よそから丸々文章を引っ張ってきているため、自分の学位論文に直接関係のないことまで書かれていたり、自分で考えた文章ではないため、他の章との論理展開と不整合だったりする。また微妙に「てにをは」を変えてきたりするため、練られた元の文章と違い、日本語として破綻している場合がある。訓練された研究者がその論文をちゃんと読めば、「あれ、何かこの部分はおかしいな」と気が付くはずである。例えば小保方氏の博士論文の場合、図の出典が一切明記されていないこと、自分の博士論文の動機の説明などではなく一般論や該当分野の解説が延々と続くことからして、(ちゃんと読んでいるのであれば) 指導教員や論文審査員はコピペに気が付くのは当然である。

学生の論文指導をちゃんとやらない指導教員にあたってしまった場合、そしてコピペをしてはいけないと教育を受けなかったり、周りや先輩が当然のようにコピペをしている環境に学生が置かれてしまった場合、一度学位の授与されてしまった卒業生から学位の剥奪するというのは、困難なのではないだろうか。また、学位を剥奪するのが適当だろうか。書き直しを命じて再度審査をやり直すというのが、教育機関として真っ当な対応方法だと思う。そして、そのような指導や審査を行った大学、教員に対して、厳正な処分が下されるべきだ (厳格な教育や審査が行われていたのに、学生が巧妙に不正行為を忍ばせたのであれば、この限りではない)。

長い文章のコピペほど悪質ではないが、軽微な不正行為の例として図表の無断転載 (引用元を明記しないで使用) がある。学位論文では特にイントロ部分などで他の論文の図を使用することがあるのだが、元の論文から図を持ってきたことを明記しない場合、「この図は私が自分で作りました」と宣言することに等しく、不正行為とみなされるし、また著作権の観点からも不適切である (もちろん、その図を学生本人が作ったわけではないのは、論文の流れから明白な場合が多い)。

少なくとも宇宙線物理学の実験系では、この不正行為*1が半分くらいの修士論文で行われているというのを経験的に知っている。そして、指導教員や修論審査員から指摘を受けることもなく、不正を残したまま学位が授与されている。

実際に自分の修士論文でも図表の引用元をちゃんと明記せずに使用したものがあるので、これが修士の学位剥奪に相当するのであれば学位授与機関である東京大学と争うことになるだろう。しかし大事なことは、そのような形式上の不備が例え東京大学であっても、ちゃんと指摘されないまま学位が授与されうるということである (形式の不備までちゃんと指導されないが、本文は非常にしっかり審査員に読んで頂いている)。もちろん大事なのは学位論文の本文なのだが、学位論文としての形式を守るということも徹底しなくてはいけない。

早稲田が今後どのような対応するかはともかく、若手の研究者がやるべきことは、ちゃんと学生の指導をすることに尽きる。多くのコピペは、指導をちゃんとすること、学位論文をちゃんと読むことで防げる。「コピペを許す空気の醸成に加担したことのない指導教員のみが石を投げなさい」と言われたら、自信を持って石を投げられる研究者はどれだけ日本にいるだろうか。

論文捏造 (中公新書ラクレ)

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背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?

背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?

 

 

*1:広いエネルギー範囲での全宇宙線のスペクトルを描いた有名な図です。あれは出典がどこなのか分からないまま広くうちの業界で使われていて、多くの学位論文や他の文書で出典が書かれずに使われています。出典が分からずに図を使うなんてのは科学としては言語同断で、こういうのはうちの業界でちゃんと浄化しないといけません。Swordy (2001) に白黒の図がありますが、最初の作成は Cronin et al. (1997) 用のようです。カラー版の初出はどこなのか不明です。

国立大学助教の給料 – その初任給と昇給の計算方法

助教になるといくら貰えるの?」という疑問を持つ院生やポスドクの方は少なくないと思いますが、人生設計に給与額はかなり関係してくるにも関わらず、公募情報などには「〜〜大学給与規定に基づき支給」のような書き方しかありません。普通の人には「〜〜大学給与規定」なんてものから算出するのは、ほぼ無理です。

名古屋大学の場合、「名古屋大学職員給与規定」と「名古屋大学職員本給細則」にこの情報が書かれています。どの国立大学も中身はほとんど同じなので、基本的に同じように計算できます。

初任給の計算

名古屋大学職員給与規定」には初任給の規定があります。

(初任給)
第6条 新たに採用する者の初任給は,その者の学歴,免許・資格,職務経験及び他の職員との均衡を考慮して,別に定める。

この「考慮して」の部分は、助教の場合だと「名古屋大学職員本給細則」にある「教育職本給表(一)初任給基準表」に基づくようです。これを見ると、4 年制大学卒で博士課程を修了した平均的な助教の場合、本給表 (俸給表) の「2 級 31 号給」から給料が開始されることが分かります。

さて、「本給表」とは何でしょうか。大学の教職員の給料は基本的に本給表に従って計算されます。そのため、年俸制でない限り、同じような経験年数、勤務年数の人は同じような給料になります。

助教の場合は「教育職本給表 (一)」を見ればよく、級が 2 級に相当し、経験年数によって号給が決定されます。

助教は「2 級 31 号給」からの開始なので、月給の基準額は 283,200 円です。ただし、博士取得後にポスドクなどを経験していると「経験年数」が加算されます。

名古屋大学職員本給細則」には経験年数に関する取り決めがあり、次のように記載されています。

(経験年数を有する者の本給)
第15条 新たに職員となった次の各号に掲げる者のうち当該各号に定める経験年数を有する者の本給は,第12条第1項の規定による号給(前条第1項の規定の適用を受ける者にあっては,同項の規定による号給。以下この項において「基準号給」という。)の号数に,当該経験年数の月数を12月(その者の経験年数のうち5年を超える経験年数(第2号,第3号又は第5号に掲げる者で必要経験年数が5年以上の年数とされている職務の級に決定されたものにあっては,当該各号に定める経験年数とし,職員の職務にその経験が直接役立つと認められる職務であって別に定めるものに従事した期間のある職員の経験年数のうち部内の他の職員との均衡を考慮して総長が相当と認める年数を除く。)の月数にあっては18月)で除した数(1未満の端数があるときは,これを切り捨てた数)に別表第8に定める昇給号給数表のC欄の上段に掲げる号給数を乗じて得た数を加えて得た数を号数とする号給(別に定める者にあっては,当該号給の数に3を超えない範囲内で別に定める数を加えて得た数を号数とする号給)とすることができる。

要は、ポスドク等を例えば 3 年と 9 ヶ月やったとしたら、端数切り捨てで 3 年の経験年数と見なし、この年数に 4 号給 (「別表第8に定める昇給号給数表のC欄の上段に掲げる号給数」に相当) を乗じますということです。

僕の場合は博士取得後に特任研究員を 6 ヶ月、学振 PD を 2 年5 ヶ月やったので、経験年数が 2 年という扱いです。したがって、31 号給ではなく 39 号給 (304,400 円) からの開始でした。わざと 1 ヶ月着任を後ろにずらせば、経験年数が 3 年という扱いになったので、毎年の年収が 10 万円くらい変わったみたいです。残念。

昇給の計算

助教の場合に人事評価がどうなっているのか理解していないのですが、勤務成績が「良好」の場合は 1 年あたり 4 号給ずつ昇給して行きます。したがって、例えばポスドクの経験年数 3 年で 5 年間助教として勤務すると、31 + 3 × 4 + 5 × 4 = 62 号給になり、月額 332,500 円になります。

だいたい、年間合計 10 万円くらい昇給すると思えば良い計算です。

助教の場合 141 号給が最大ですので、31 号給から開始したとすると、ここに達するのに 27.5 年かかります。28 歳開始だとして 56 歳くらいの時ですね。141 号給で 383,800 円なので、後述するボーナスと各種手当を含めて、最大でも年収 750 万円というところでしょうか。

その他の手当

月額 30 万円くらいと聞くと学振 PD のほうが良いように見えますが、各種手当がこれに加算されます。

一番大きいのは賞与で、名大の場合は期末手当と勤勉手当という名称です。これは年間 4.5 ヶ月分くらいのようです。つまり、月額 30 万円の号給を貰っている場合、年間ではこれに 16.5 を乗じた額、約 500 万円が基本給と賞与として支給されます。

また、大学院生の指導を行う場合は大学院指導手当が (僕の職場だと助教の場合 1 万円/月くらい) つきます。ただし、3 ヶ月以上の長期出張をすると支給されません。

地域手当が 4 万円/月くらい、住居手当が最大 2.7 万円/月です。これらは大学によって異なると思います。

僕の場合、妻子ありなので、扶養手当も 2 万円/月くらいついています。これは子供の数と、配偶者の収入によって変わるはずです。

センター試験の試験監督をやると、2 月に入試手当が 1.8 万円加算されます。土日出勤の丸二日間拘束ですので、ちと安い気もします。

あと、勤務年数に応じて退職金が加算されていきます。給料の 10% くらい (?) が毎年退職金の合計額に加算されるはずです。これが任期付きの年俸制職との見えない差でしょうか。ただし今後、退職金という制度がいつまで維持されるのかは不明です。