久しぶりにマンガで声出して笑ったwww『マンガ 量子力学』石川真之介 著
僕の研究仲間のお一人である石川真之介博士が新作『マンガ 量子力学』を出版されました。おめでとうございます。ご本人から献本して頂いたので、久しぶりに書評を。
1. どういう人にお薦めか
マサルさんとか、王様はロバとか、脱力感のある、シュールな笑いが好きな人向け。ただし、若干の量子力学に関する知識を持っていたほうが良いでしょう。量子力学の試験勉強の入門用だとか、物理系じゃない方が量子力学を知るための入門用としては向かないかもしれません。
じゃあ、何のための本だよ、と突っ込みたくなりますが、この本の題は『マンガ 量子力学』であって、「マンガで分かる」とか「マンガで勉強」なんてどこにも謳ってないんです。帯にこそ「『量子力学』の入門書」と書いてありますが、「ギャクマンガ」をブルーバックス*1が出すわけにはいかないので、これはただの引っかけです。
量子力学のネタを随所に練り込んだ、不思議世界の魔法少女系ギャグマンガだと思って購入すれば失敗しません。そういう心積もりで手に取るなら、絶対に期待を裏切ることはないはずです。忘年会の景品やクリスマスプレゼントを考えるこの季節、懐に余裕のある理系の学生は、ネタで 1 冊、購入してみるのも良いかも。
2. なぜ『マンガ 量子力学』をあえて出版するのか
これは本人や出版社に聞いてみないと分かりませんが、量子力学の入門書やマンガ参考書が数ある中で、なぜブルーバックスからわざわざ出すのでしょう。この本の最大の特長は、原作と作画が同一人物ということです。著者の石川真之介博士は、人工衛星を使って宇宙を X 線で観測するのが専門の、バリバリの研究者です。もちろん、プロの漫画家ではなく宇宙物理の研究で飯を食っています*2。しかし自分の脳内にある物理の考え方を、自分の趣味とするマンガで世の中に伝えたいという思い、それが彼のこの作品です。
もちろんプロの漫画家ではないので、そこらへんのマンガに比べれば絵は下手くそです。たまにカイジのような関節の捻りがあったり、『進撃の巨人』に出てくるマイナーキャラのような表情を見せることがあります。でも、著者がマンガ好きの物理屋だからこそ、魔法少女が量子力学を使って戦闘するなんていう、意味の分からない設定が生れるんです。
例えば、同じような系統のものとして『マンガでわかる量子力学』を見てみましょう。Amazon の「なか見検索」もできます。
3. あらすじ
毎日を退屈に過ごす平凡でちょっと可愛い (?) フェル美 (ふぇるみ) ちゃんが、人間語を操る謎の野良犬フォト丸 (ふぉとまる) の助けを借りて、「量子魔法少女」に変身して大活躍する物語です。古典力学を使う古典 (こてん) ちゃんとの魔法弾を使った壮絶なバトル、そして「先輩」とフェル美ちゃんの恋の行方は…。
いやもう、石川君が博士論文を書きながら、こんなわけの分からない物語を同時並行で描いてたことが凄い。時間の使い方とその発想がやばい。「お巡りさん、ここです!」のレベル。
4. 評価
- 画力♀ ★★☆☆☆
- 画力♂ ★☆☆☆☆
- 画力動物 ★★☆☆☆
- 独創性 ★★★★★
- 笑い ★★★★☆
- 理学書として ★★★☆☆
- 総合評価 ★★★★☆
ということで個人的にはお薦めです。
5. 改善点
読者として、こうだったらもっと良いのにと思う点を挙げておきます。
まずは画力。これはやっぱりもっと頑張れるけど、あまり本質的でない。今くらいの画力だからこそ、笑って楽しむことができるのかも。あまりに画力がありすぎて、本当に激しい戦闘シーンや先輩との恋愛が描かれていたら、それはこの本の魅力を半減してしまうかもしれない。諸刃の剣。
次に、量子力学についての説明の多くが、スピンの量子化になってしまっていること。前半部分はほとんどこれで物理的内容を占めてしまっている。スピンが分からない人には、理解が追いつかないかもしれないかなと思った。でもスピンを既に知っている人がギャグマンガとして読む本なので、これもまあ良いか。
量子力学の「入門書」を実は目指しているなら、マンガ部分と解説部分のバランスがちょっと悪いかもしれない。後者をもう少し噛み砕いてマンガ部分に詰め込めれば、もっと (物理として) 面白いと思う。多分、アニメ化して半年くらいかけて徐々に物理の内容を説明して行くのが良い。
ブルーバックスは高い。普通のマンガが 400 円とか 500 円で買えるのに、ブルーバックスのこの定価は 820 円。もちろん数千円の理学書に比べれば安いけど、やはりマンガとして 400 円くらいで買えるほうが望ましい。iPad アプリにして、1 冊 100 円、それを 5 冊に分けて内容を充実させて配信、だったりすると良いのにな、と。