論文の読み方入門

対象読者

この記事はうちの研究室に入ってくる学部 4 年生や修士 1 年生に向けたものです。論文の読み方について説明しますが、どの分野でも当てはまることかは分かりません。また研究室や指導教員ごとに、色々と考え方があると思います。

大学院に進学すると「論文を読め」と言われます。しかし読んだことのないものを読むのは大変なものです。「読め」と言ってくる教員も、自分たちが若かりし頃に論文を読むのに苦労したことを忘れてしまっている場合もあります。論文とはそもそも何なのか、論文をどうやって読んだら良いか、毎年新入生に説明するのもこちらも大変なので、記事にまとめます。

論文とは

大学院生や研究者が研究をすると、その結果を論文と呼ばれる形態にして世界に発信します。どのような立派な研究をしても、論文という形で誰でも読める状態にして発表しない限り、その結果が人の目に触れることはないからです。研究結果を論文にまとめて発表するというのが、その研究の一つのゴールだと言えます。

論文として発表する以外に、国際会議や学会などでの講演、特許の取得という方法もあります。しかし口頭発表などをするだけでは、その場にいた人にしか研究成果を伝えることはできません。そのため、いつでも誰でも世界中から研究結果を見ることができるよう、論文にして後世に記録を残すのです。

何か新しい研究を始める前に、すでに誰かがその研究をやっていないか調べる必要があります。これを先行研究を調べると言います。研究というのは先人が積み上げた科学成果の上に立って、さらに科学を発展させていく作業ですので、誰かが過去にやったことを繰り返しても意味がありません。また、研究をする上で先人の失敗や問題点を知っておくのも、自分の研究を円滑に進める上で重要なことです。

論文は数ページから数十ページの文章です。これを複数まとめて掲載する媒体を論文誌とか学術誌とかジャーナルと呼びます。有名なものだと、Nature とか Science とか Physical Review Letters があります。このような論文誌は週刊誌などと同じように、複数をまとめて号 (volume) という単位で発行します。また、その号の中で通しのページ番号を振られます。ある特定の論文を指すには、著者名、雑誌名、号、ページ番号、発行年を並べます。例えば、次のように書きます。

Akira Okumura, Astroparticle Physics 38, 18–24 (2012)

論文の種類

論文には大きく分けて 3 つの種類があります。

査読論文

論文出版の流れは大雑把に次のようになります。

  1. 研究して結果が出る
  2. 論文にまとめる (論文を書きながら研究することもあります)
  3. 論文の出版社に投稿する
  4. 通常はレフェリー (査読者) から査読コメントというものが返ってくるので、これに従い論文を改定して出版社に送り直す (ここで掲載拒否 = reject される場合もあります)
  5. 論文が受理 (accept) される (受理されない場合もあります)
  6. PDF としてオンラインで公開される
  7. 紙媒体に印刷されて、場合によっては大学の図書館に収まる (オンラインしか存在しない論文誌もあります)

業績として見なされるものは通常これです。うちの業界では、査読のない論文というのは滅多にありません。

国際会議プロシーディングス

多数の研究者が集まって研究成果を発表する国際会議が世界中でたくさん開かれています。これら会議、特に規模の大きいものでは (うちの分野だと ICRC や SPIE や IEEE や VIC など)、プロシーディングス論文 (proceedings paper) というものを発表者が書く場合があります。これは会議で発表した研究内容を数ページの比較的短い論文として執筆し、会議に参加しなかった人でも読めるようにするものです。

ただし、査読論文 (対義語としてフルペーパーと呼ぶこともある) に比べ、研究の途中結果の場合が含まれる場合が多々あります。また、すでにどこかで査読論文として出し終えたものの焼き直しだったりする場合もあります。逆にプロシーディングスとして発表されたのに、いつまで待っても査読論文として最終結果の出てこない研究もあったりします。

このような論文は、査読のあるものもあれば査読のないものもあります。特に査読のないものは、その品質があまり保証されません。査読があっても、普通の査読論文に比べると査読がしっかりしていない場合も多いので、うちの分野では総じて品質が高くありません。そのため、「論文を読め」と指導教員に言われた場合、査読論文を指していることが多いでしょう。

一方、途中経過であったり質が高くなくとも、プロシーディングス論文から研究の最新情報を得られる場合はたくさんあります。特に何年もかかる装置開発などの場合、途中経過であってもプロシーディングス論文から多くの情報が得られる場合が多いです。必要に応じてきちんと読みましょう。

arXiv

https://arxiv.org/archive/astro-ph
査読論文はレフェリーとのやり取りで半年や 1 年を費やすこともあるため、最新の研究を世界中に伝えるには必ずしも良い方法ではありません。そのため、論文を書いたらすぐに世の中に出したい場合、arXiv というサービスを使うのがうちの業界では一般的です。

arXiv は書いてすぐのものを査読なしで投稿することができるため、査読論文として出版される最終版と中身が異なるものが多くあります。特に理論の論文だとその割合は高くなります。もし論文を読むときに arXiv でその論文を見つけた場合でも、出版社の出している最終論文がないかを確認し、最終版を読むようにしてください。

実験系の論文は最終的な結果や数字以外を出したくないので、特に大きな実験グループの場合、査読論文として受理された後に arXiv に載せる場合が多いです。

論文へのアクセス

多くの出版社は営利企業が運営しており、読者からの購読料を集めない限り運営ができません。そのため論文を読むためにはその対価を支払わなくてはいけません。図書館に置かれている論文誌は、図書館が出版社から購入したものです。

しかし学生や研究者がオンラインで PDF 論文を読みたい場合、論文ごとに何千円も支払うのは非効率です。そのため、多くの大学や研究機関では多数の出版社とオンラインアクセスのための契約をしています。その大学のネットワーク内から論文にアクセスすると接続元の IP アドレスを確認し、それが契約を結んでいる大学のものであれば、論文を無料で (実際は大学が何億円も払って購読料で契約している) 読むことができます。自宅などからアクセスすると、金を払わないと読めないと表示されるでしょう。

しかし近年になって、国民の税金でやった研究成果を見るために営利企業にさらに国民が料金を支払わないといけないのはおかしいとか、商業出版社の寡占化 (大学の支払う購読料が値上がりし続ける) が問題視されています。そのためオープンアクセス (open access) と呼ばれる、誰でもどこでも論文を読めるように PDF が公開されている論文誌も多く出てきました。

慣れないうちの論文の読み方

進学して最初の頃は、背景となる最新研究、これまでの過去の研究の経緯、どのような実験・観測装置があるかといった知識が圧倒的に不足しています。量子力学電磁気学の勉強は何十年も前に構築された基礎物理ですので、これだけを一生懸命勉強してきても残念ながら論文は読めないのです。

また、大学入試程度の英語力 (例えばセンター試験の英語で 95% の得点率) では論文を素早く読むことはできません。業界特有の英語が使われていたり、日本語で物理を勉強したために対応する英単語を知らない、また入試に出てこないような英単語も多く出てきます。これに前述の知識不足が重なるのですから、最初は短い論文であっても読むのに苦労すると思います。

ですので、「読め」と言われて「読めませんでした」となるのはごく自然なことなので、あまり悲観的にならないでください。しかしそれを乗り越えないと論文は読めるようになりませんし、多読と慣れと勉強でどうにかなりますので、諦めずに読んで下さい。

最初は読めないのは当たり前なので、「自分が英語が苦手だからだ」と思うことなく、わからない部分は教員や先輩にどんどん質問をしましょう。とても簡単な英単語でも、その物理背景を知らないとさっぱり意味が分からないことは多々あります。

例えば僕が M1 のときにスーパーカミオカンデの論文を読んだのですが、「electron-like event」のような言葉が全く理解できなかったのを覚えています。単語自体は簡単で直訳すれば「電子風事象」ですが、何が「風 (ふう)」なのか理解不能でした。これは背景となる反応プロセスを理解していないため、英語としては意味が理解できても、物理として意味が分からないのです。

論文を読む上での要所

論文を読んできた学生に僕がいつも尋ねるのは、「で、この論文は何がどう面白いの?」ということです。論文というのは何かしらの科学成果が書かれているわけですから、それが科学的に重要な (= 科学として面白い) ものであれば、何が重要な成果なのかが必ず書かれているはずです。つまり面白い話のオチ (論文の結論) が書かれているはずです。

しかし政治を理解していないと時事ネタの冗談のオチが理解できないように、背景となる知識の不足や英語の読解力不足があると、その論文の面白さを理解できません (論文自体がまったく面白くないという場合もありますが)。ですので、自分がその論文をちゃんと読めているかどうかは、その論文の面白さが理解できたかで判断するのが簡単です。

次に、なぜこの論文が書かれたか、研究が行われたのかを説明できるかを確認しましょう。これは研究の背景が理解できているかの確認になります。

そして、論文に出てくる図の一つ一つから何が言えるのか、なぜその図がその論文には必要なのかを説明してみましょう。論文はある動機や仮説、研究背景から始まり、何かしらの結論に辿り着くように書かれています。論文中の図表は、その結論に進む論理展開を支持するために必要な材料なのです。ですから、なぜその図があるのか、その図から何が言えるのかを理解できているというのは、その論文の論理展開を追うことができたということです。

論文によっては不必要な図があったり、論理展開がそもそもおかしい場合もあるので、論文がおかしいと思ったら、論文に書かれていることを鵜呑みにせず、自分の考えも大切にしましょう。

少し慣れたら

論文を数本読んでみて、書かれていることをなんとなく理解できたら、その論文で引用 (citation) されている論文にも目を通してみましょう。例えば今読んでいる論文がある天体の観測論文だった場合、他の望遠鏡による観測の論文や、同一の望遠鏡でも過去に観測した例などが引用されているはずです。

一つの論文には何十もの引用がされているのが普通なので、全てを通読する必要はありません。ただ、引用されている論文の中身を知らないと、読んでいる論文の動機自体がそもそも理解できない場合が多々あります。そのような場合、引用されている論文の概要 (abstract) や図だけでも目を通してみましょう。

Abstract というのは、その論文に何が書かれているかを短くまとめた、通常 1 段落の文章です。論文の先頭には必ずこれが書かれており、論文全体を読む必要があるか、面白いかどうかはこれを読んで判断することがほとんどです。

剽窃について

この記事は修士論文 LaTeX テンプレートとして公開しているものの第 5 章からの転載です。リンク先は LaTeX のソースファイルですが、コンパイル済みの PDF 文書は「添削者を困らせることのない修士論文の書き方の研究」として入手可能です。

github.com

第 5 章 剽窃について

5.1 剽窃とは何か

剽窃(ひょうせつ)」とは

  • 「他人の作品や論文を盗んで、自分のものとして発表すること。」『大辞泉
  • 「他人の作品・学説などを自分のものとして発表すること。」『スーパー大辞林
  • 「他人の著作から,部分的に文章,語句,筋,思想などを盗み,自作の中に自分のものとして用いること。他人の作品をそっくりそのまま自分のものと偽る盗用とは異なる。」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』

のように辞書では説明されています。

例えばここで『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』を引用元として明記せずに、

剽窃(ひょうせつ)とは、他人の著作から部分的に文章語句思想などを盗み自作の中に自分のものとして用いることです。他人の作品をそっくりそのまま自分のものと偽る盗用とは異なります

という説明をしたとします。これが剽窃です。この例では赤字で示したとおり、文体をですます調に変更したり、読点を「,」から「、」に変更したり、文頭に「剽窃(ひょうせつ)とは、」と書き加えたりしていますが、全体としては同一の文章であるため、通常は剽窃と見なされます。

学術論文ではない創作物の形態によっては、剽窃行為が「インスパイア」や「オマージュ」という言葉で括られることもあります。しかし修士論文での剽窃行為は不正行為です。試験でのカンニングやレポートの丸写しと同じであり、(まともな大学や研究室であれば)厳しく罰せられます。

5.2 剽窃をするとどうなるか

修士論文中に剽窃行為が発見された場合、その学期における単位をすべて没収され、卒業に必要な単位が与えられず修士課程を修了できなくなる可能性が高いです。各大学や研究科でどのような対応を実際に取るかはそれぞれだと思いますが、少なくとも私が審査員を担当した場合には落第させます。

修論審査に落第すれば、もし就職が決まっていても留年を余儀なくされます。留年を選択せず修了を諦めて中退するにしても、就職先は剽窃行為のせいで修了できなかった学生をそのまま採用はしてくれないでしょう。仮に同じ企業に就職が認められたとしても、修士卒扱いで入社できたはずのところが学部卒扱いとなり、初任給が月額数万円低い状態から開始となります。例えば同期と2万円の月給差を保ったまま40 年間働くとすると生涯収入で 1000 万円程度の損失になります。もし留年する道を選んでも、定年時点で1000万円程度の年収を見込めるのであれば、生涯収入としてその額だけ失うことになります。

もし博士課程に進学する場合、なぜ留年したかの説明を陰に陽に常に求められます。たとえ直接にその理由を問われることがなくとも、他の学生より1年多く修士課程に時間がかかったということは、優秀な学生ではないと周りから見なされ、研究をする上でも奨学金などを取得する上でも不利になるでしょう。また標準年限を超えての在籍の場合、大学院の授業料免除などの制度も利用できなくなる可能性があります。

5.3 修士論文における剽窃について

節 5.1 に引用した一般的な剽窃の定義ではなく、科学文書や、特に修士論文での剽窃についてもう少し踏み込んで説明し直してみましょう。

5.3.1 いわゆるコピペ

少なくとも宇宙物理学分野における修士論文は独自性のあるものでなくてはいけません。独自性のある(オリジナル)とは次のようなことです。

  • 誰かが過去にやった研究ではないこと
  • 自分自身の手でやった研究であること(共同研究であれば、十分に自分の貢献のあること)
  • 研究本体以外の章も含め、すべて自分の言葉で説明できること

したがって、誰かの論文や教科書の記述をそっくりそのまま持ってきて(いわゆる「コピペ」して)、それを自分の修士論文として提出することは許されません。高校や大学のレポートなどでも、他人のレポートを写すなと散々注意されるのと同じことです。

これはコピペする文章の長さに依りません。たとえ1行であってもコピペはコピペであり、剽窃と見なされます*1

もちろん、ある文章を他の論文や書籍から引用(quote)する必要のある場合は、逆に改変してはいけません。そっくりそのまま書き写し、それを自分の文章とは別のものであると分かるように引用符や枠で囲むなりします。しかし宇宙物理学関連の修士論文でこのような引用をすることは、ほとんどないと思います。

5.3.2 他人の文章の改変

コピペとともによく見られるのが、他人の文章を一部だけ改変して自分が書いたかのように装うことです。完全に同一のものを持ってくる方が簡単ですし、なぜこのような行動を取るのかよく分かりませんが、私の経験として最も多い剽窃行為がこの文章の一部改変です。

もしかすると「先輩の修論を写したりコピペするなよ。自分の言葉で書けよ」とだけ教員から指導を受けると、表面的に一部改変すれば剽窃にはならないと勘違いするのかもしれません。しかし元の文章が存在しなければ作成できないのですから、これは独自性のある文章とは見なされず、やはり剽窃行為となります。

たとえば次のような文章が「元ネタ」として存在していたとしましょう*2

1910 年代に Hess らによって宇宙線の存在が確認されて以来、様々なエネルギー領域、様々な検出器によって宇宙線の観測が行われてきた。同時に、ガリレオ以来発達してきた可視光による天体の観測も、電波望遠鏡や赤外望遠鏡の登場によって多波長での観測へと発展することとなった。

宇宙線と言っても、その成分は電磁波、陽子、原子核、neutrino など様々であり、それらの持つエネルギーも広範にわたる。現在地球上で確認されている宇宙線のうち、最もエネルギーの高いものは 10^{20} eV を超える(最高エネルギー宇宙線)。これは人工的に到達できるエネルギーを実に 8 桁も上回るが、なぜそのような高エネルギーの宇宙線が存在するのかは謎である。加速機構、地球までの伝播過程、1 次宇宙線成分は何であるのか、いずれも未解明のままであり、その興味は尽きない。

奥村 (2005) より引用

少しこれを改変してみましょう。赤字が削除箇所、青字が追加箇所です。実際に私が発見してきた剽窃行為には、このような改変が多くありました。

1910年1912に Hessによって宇宙線の存在確認初めて発見されて以来、様々な広いエネルギー領域範囲様々多種多様な検出器によって宇宙線観測が行われてきた。同時にまたガリレオ以来発達してきた可視光による天体の観測での天体観測も、電波望遠鏡や赤外望遠鏡という新しい観測手段の登場によって多波長での観測により、多波長観測へと発展することとなったした

宇宙線っても、その成分は電磁波、陽子、原子核neutrino電子、ニュートリノなど様々であり、それらの持つそのエネルギー範囲広範何桁わたる。現在上で確認されている宇宙線のうち、最もエネルギーの高いものは10^{20} eVを超える(いわゆる最高エネルギー宇宙線)。これは人工的に加速器で人類が到達できるエネルギーを実に 8 桁も上回るが、なぜそのような高エネルギーの宇宙線が存在するのかは謎である解明されていない宇宙線加速機構、地球までの伝播過程、また 1 次宇宙線成分は何であるのか、いずれも未解まま問題であり、その興味は尽きない将来の宇宙線観測計画による解決が期待される

奥村 (2005) を意図的に改変

5.3.3 元の文章を下敷きに自分で考えたつもりになったもの

さらに改変の量を増やし、ところどころに自分の独自の文を入れたり、文の前後を入れ替える剽窃もあります。自分で考えて文を挿入するのだから剽窃ではないと考える人もいるかもしれませんが、やはり元の文章が存在しなければ書くことのできない文章ですので、これも立派な剽窃です。たとえば次のようなものです。

Hess の気球実験によって 1912 年に宇宙線が大気中で発見されてから、様々な粒子、多様な検出手法、また MeV 領域から10^{20} eVにまでおよぶエネルギー範囲で宇宙線の観測が行われてきた。一方、電磁波による天体の観測も、ガリレオによる可視光観測に始まり、電波望遠鏡や赤外線望遠鏡などの登場によって他波長観測へと発展した。さらに近年の重力波ニュートリノ観測を加え、現在の宇宙観測は、多粒子、他波長観測の時代、すなわちマルチメッセンジャー天文学へと進展した。

このうち宇宙線は、陽子、原子核、電子、ニュートリノなどを含む、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子である。先に述べたように、その最高エネルギーは10^{20} eVにまでわたる(いわゆる最高エネルギー宇宙線)。これは人類が LHC 加速器で到達できる数 TeV というエネルギーを 8 桁も上回るものであるが、なぜそのような高いエネルギーの宇宙線が宇宙で加速されているのか、宇宙線の発見から 100 年以上が経っても未解決の問題である。その加速機構、加速天体、地球までの伝播、また粒子の種類がなんであるかという謎を解き明かすには、今後の宇宙線観測手法に大きな飛躍が必要である。

奥村 (2005) を意図的に改変

ここまで改変すると、全く違う文章のように感じる人もいるかもしれませんが、実際に行われる剽窃行為では、このような元ネタに改変を加えた文章が何段落も続くことが多いです。そのため、文章の一部が似通っているだけでなく、その章の論理展開自体がほとんど同じになってしまうのです。

研究背景は過去に行われた研究の積み重ねなので、論理展開が同じになることは仕方がないという主張をする学生もいます。しかし修士論文はその研究目的が各々違うわけですから、論文のイントロなどで全く同じ論理展開になることは本来ありえません。その論文独自の研究内容を説明するためにイントロは書かれるべきであり、他の文章と同じであるというのは、イントロを書くという目的を勘違いしています。

5.3.4 出典のない図表の使用

他人の文章を剽窃する行為とは別に、図表を適切に引用(cite)せずに流用するという剽窃もあります。これは悪意があって行われているわけではなく、引用の作法を知らないだけの場合が多いため罪としては軽いかもしれません。しかし、その修士論文の読者に対して「この図は自分が作りました」と嘘をつくのと同じ行為ですので、やはり問題行為であることは理解できると思います。

このような図表の剽窃は、特に共同研究で多く見られます。ある実験プロジェクトに参加している場合、実験装置の説明の図や写真をプロジェクト内で使いまわすことがあるでしょう。たとえば図 4.1 のようなものが該当します。もしこれを出典もしくは作者を明記せずに使用した場合、剽窃行為に当たります*3

図表の提供者の名前を入れる、その図が最初に使われた論文や出版物が存在する場合はそれを出典として明記する(cite する)、もしくは提供した実験グループなどの名前を入れるなどしてください。

5.3.5 アイデアの盗用

他人の考えた研究アイデアを自分が考えたかのように記述するのも剽窃です。例えば投稿論文になっていないものの、先輩の修士論文で先行研究が行われていたとしましょう。これを先行研究として取り上げることなく、「〜〜という手法を本論文では考案し」などと書くのは剽窃行為です。きちんと「〜〜という手法が先行研究で提案され、本論文ではこれを発展させ」のように書きましょう。

5.3.6 自己剽窃

自己剽窃とは、自分の書いた論文などから図や文章を剽窃して再利用することです。なぜこれが問題とされるのか、直感的にはすぐに分からないかもしれません。

自己剽窃が最も問題とされるは、論文の二重投稿です。どこかで論文を出版する場合、レビュー論文でない限り、それぞれが独自の新規性を持つ論文でなくてはいけません。したがって、業績稼ぎのために同じ内容の論文を複数の場所で発表するのは研究不正として扱われます。

次に自己剽窃が問題となるのは、著作権の問題です。投稿論文を科学誌に掲載する多くの場合、その著作権を出版社に譲渡することになります。最近のオープンアクセス(open access)誌の場合には著作権が論文著者に残される場合もありますが、投稿論文の著作権を必ずしも自分が持っているわけではないのだということを覚えておいてください。

著作権が出版社にあるということは、その著作物を引用の範囲を超えて勝手に再利用してはいけないということになります。著作権、英語で書くと copyright ですが、すなわち複製する権利を出版社に譲渡してしまっているからです。

ただし、多くの出版社では学位論文や国際会議のプロシーディングスなどで、著者が図表などを出版社に断らずに使いまわすことを許可しています。ただし、出典を明記することは求められていることが多いはずです。もし投稿論文に使用した図表もしくは文章を修士論文で使いまわす場合、出版社との著作権の契約について理解しておきましょう。たとえば Elsevier 社の場合、http://jp.elsevier.com/authors/author-rights-and-responsibilities に著者の権利が書かれています。他の出版社も同様の情報を公開しています。

5.4 なぜ剽窃は許されないのか

なぜ剽窃行為は許されず、それが修士論文で不正行為とされるのか、その理由を改めてまとめます。

  • 学位審査は、学生が研究背景などを理解しているか、またそれを自分の言葉で伝える能力を身につけているかを審査する場です。したがって、剽窃を含む文書ではこの審査を適切に行えなくなってしまいます。修士の学位を与える審査の一環として修士論文を執筆しているわけですから、修士論文作成能力がないのにそれを他人の文章を使って誤魔化すのは、当然不正行為になります。
  • 同じ文章を使いまわすとき、一般的には引用 (cite ではなくて quote) をし、自分の書いた文章と他人の文章を区別するのが標準的です。超新星の過去の記録など一部の例を除き、宇宙物理学分野でquoteのほうの引用をすることはほとんどありません。もし必要となる場合は、他人の書いた文章であることが明確に読者に分かるようにしましょう。自分で作った文章かのように見せるのは決して許される行為ではありません。
  • 他人の書いた文章を自分が書いたかのように見せるのは、人の手柄を横取りすることになります。
  • 少なくとも日本の国内においては、他人の著作物を勝手に使用したり改変したりすることは、著作権の侵害に当たる行為です。
  • 元の文章を無理に改変することにより、推敲された元の文章よりも質の低い文章になることが多く、また間違った記載となる場合が多々あります。例えば「突発天体を観測する」を無理やり「突発天体を監視する」に変更することにより、意味が大きく変わることもあります。
  • 同じものを繰り返すというのは、先人の研究をさらに発展させていくという、科学の営み自体を否定する行為です。
  • 過去数年で該当分野に大きな進展があった場合にも、それを無視した様な文章が生産されてしまいます。例えば 2018 年の修論なのに重力波が未だ検出されていない前提の文章になっていたりということが考えられます。
  • 修論の添削をする教員は、執筆した学生の研究能力や文章作成能力を高めるために添削をしています。良い出来の修論を書かせることが目的ではないのです。そのため、本人が書いてすらいない文章を添削させ、大学教員の貴重な時間を奪うことは、学生と教員の間の信頼関係を大きく毀損する大変失礼な行為です。またそのような添削をしても本人が書いていないのですから、その学生の能力向上には全く役に立たず、学生も自分で考えることなく言われるがままに改訂を繰り返すことになるでしょう。

*1:ただし、ごくありふれた表現や、酷似するのが避けられない科学的事実は除く。

*2:これはきちんと添削を受けていない、今となっては恥ずかしい私の修論の一節ですが、あくまで例です。

*3:おそらく「出典を明記して再提出しろ」と言われるだけで、落第はしないと思いますが。

国際会議論文で使用した図の投稿論文での再利用

国際会議の proceedings paper の執筆と、学術誌への査読論文 (full paper) の投稿がほぼ同じ時期に発生したり、投稿論文の作成が後になるということは多々あると思います。このような場合、両者で同一の図を使いまわすと問題の発生する場合があります。

  1. 同じ内容を新規性のある研究成果として複数箇所で発表することは二重投稿や自己剽窃とみなされる場合があり、研究倫理上好ましくない。
  2. 論文として図が掲載される場合、その図の著作権の帰属先が著者ではなく出版社の場合があるため、異なる出版社に同一の図の権利を渡すことはできない。
  3. 論文で使用する図は、世の中に先に出たものが原則として原典になるため、後から出版された同一の図は、原典を引用するべきである。

投稿論文が先に出て、その図を国際会議の proceedings paper で再利用することは、出典を明記さえすれば著者の権利として認められている場合が多いようです。もし図の著作権を出版社に譲渡していても、proceedings paper などで再利用できるという説明が多くの出版社から出ています。

しかしその逆で、proceedings paper が先に出てしまっており、投稿論文でその中の図を再利用したい場合にどうすれば良いかは、出版社の website を見ても明記されていないようです。上記の問題を回避するためだけに、似ているけど同一ではない図を作り直すのも馬鹿らしい作業なので*1、投稿論文を受け取る出版社側としてはどのような著者の行動を望むのかを編集部に問い合わせ、これまでいくつか実践してみましたので、まとめます。それぞれ追加した文は、編集部の指示に従ったものです。

これまでの経験では、proceedings paper から full paper への図の転載はどれも認めてもらえました。もちろん出版社や、同じ出版社でも編集部によって対応が異なる可能性があるので、心配な場合はその都度問い合わせると良いでしょう。

SPIE から IOP Publishing (OA) の場合

  • 転載元:SPIE の proceedings paper (著作権が SPIE に帰属)
  • 転載先:IOP Publishing の OA (著作権が著者、CC BY 3.0 で配布)
  • 図の中身:使い回ししやすい、実験装置の写真

" [11] (© (2014) COPYRIGHT Society of Photo-Optical Instrumentation Engineers (SPIE), see reference for details)"

という文を追加。

Website の図から IOP Publishing (OA) の場合

  • 転載元:自分の所属する実験グループの website (CC BY 4.0)
  • 転載先:IOP Publishing の OA では著作権が著者にあるが CC BY 3.0 で配布
  • 図の中身:使い回ししやすい、実験装置の CG

"(reproduced from [1] under CC BY 4.0, credit: G. Pérez, IAC, SMM)"

という文を追加。

PoS から IOP Publishing (OA) の場合

  • 転載元:Proceedings of Science の OA (著作権は著者、CC BY-NC-SA 4.0 で配布)
  • 転載先:IOP Publishing の OA (著作権が著者、CC BY 3.0 で配布)
  • 図の中身:使い回ししやすい、実験装置の CG

"The figures are taken from [16] (reproduced under CC BY-NC-SA 4.0, see reference for details)."

という文を追加。

PoS から Elsevier の場合

  • 転載元:Proceedings of Science の OA (著作権は著者、CC BY-NC-SA 4.0 で配布)
  • 転載先:Elsevier (著作権が Elsevier に帰属)
  • 図の中身:シミュレーション結果

"((d)–(i): Taken from [29])." や "This figure was taken from [29]. "

という文を追加。ただし、改めて考えてみると、"CC BY-NC-SA 4.0" であることを明記するべきだったのではないかと思う。

PoS から IOP Publishing/AAS

  • 転載元:Proceedings of Science の OA (著作権は著者、CC BY-NC-SA 4.0 で配布)
  • 転載先:IOP/AAS (著作権が AAS に帰属)
  • 図の中身:シミュレーション結果

元の図が CC なので、それを明記すれば転載して良い (ただし最終的に転載しなかった)。

*1:現実には、そんな問題は考えもしないで、平気で複数箇所で同じ図を使い回す研究者がうちの分野では多数派です。

ROOT の TCanvas を綺麗に並べる

大画面液晶を使用中に ROOT でたくさん TCanvas を作った際に、重ならないように自動で綺麗に並べたいとき。

ちょっと整理していないコードだけど、とりあえずこれで動く。

void TileCanvases() {
  auto canvases = gROOT->GetListOfCanvases();

  int x0 = 0;
  int y0 = 1000000000;

  int margin1 = 0;
  int margin2 = 0;

  // First get the menu bar position
  for(int i = 0; i < canvases->GetEntries(); i++) {
    auto can = (TCanvas*)canvases->At(i);

    if (i == 0) {
      margin2 = (can->GetWindowWidth() - can->GetWw())/2;
      margin1 = can->GetWindowHeight() - can->GetWh() - margin2;
    }

    if (y0 > can->GetWindowTopY()) {
      y0 = can->GetWindowTopY();
    }
  }

  int w_display = gClient->GetDisplayWidth();
  int h_display = gClient->GetDisplayHeight();
  int x1 = x0;
  int y1 = y0;
  int ymax = 0;
  for(int i = 0; i < canvases->GetEntries(); i++) {
    auto can = (TCanvas*)canvases->At(i);
    int w_can = can->GetWindowWidth();
    int h_can = can->GetWindowHeight();
    if (x1 + w_can > w_display) {
      x1 = x0; // reset the xy position to the leftmost
      y1 = ymax + margin1;
    }

    if (y1 + h_can > h_display) {
      x1 = x0 + y0 ; // reset the x position to top left
      y1 = y0 * 2;
    }

    can->SetWindowPosition(x1 - margin2, y1 - margin1);
    x1 += w_can;
    if (ymax < y1 + h_can) {
      ymax = y1 + h_can;
    }
  }
}

例えば次のようにすると、何をしているか分かるはず。

for(int i = 0; i < 10; i++) {
  int w = gRandom->Uniform(400, 600);
  int h = gRandom->Uniform(400, 600);
  auto can = new TCanvas(Form("can%d", i), Form("can%d", i), w, h);
}

TileCanvases();

出張の持ち物 2018 年版

2011 年版が古くなったので更新。当時は化粧水とか使っていたらしい。

国内・海外出張共通

  • メガネ
  • コンタクトケースと洗浄液
  • ワックス
  • 歯ブラシ
  • 服・パンツ・靴下・ハンカチ
  • 折り畳み傘
  • 雨合羽
  • 保冷袋
  • ジップロック
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国立大学で助教から講師へ昇格した場合の給料の計算

先日、助教から講師へ昇格しました。名古屋大学の内部昇格制度を利用しての結果です。この制度は任期付助教テニュア審査(無期転換と講師昇格)が数年前に名古屋大学で導入されたため、既に雇用されていた任期無し助教にも、講師昇格への機会を設けたものです*1*2

研究者という職業

研究者という職業


この記事では、「大学教員って実際に何歳くらいで給料どれだけもらえるものなの?」という研究者志望の若手が参考にできるようにするためのものです。公募案内でよく目にする「待遇:本学の給与規定による」というのは、この記事に解説するような計算に則っています。「給料いくらですか?」なんて公募を出している教授本人に聞いてもそもそも分かりませんし、なかなか聞きにくいでしょう。

多くの国立大学では給料に関する規定が公開されているはずで、地域手当や寒冷地手当などの差はありますが、およそ同様の計算手法で算出できると思います。私立大学は伝え聞くところでは同等から最大 2 倍くらいじゃないかと思いますが、その大学によります。

注意して欲しいのは、「年俸制」と呼ばれる制度に大学教員の給与体系が徐々に移行していることです。この記事の計算方法は月給制で、およそ 10% の金額が退職金に加算されていきます(私立大学や海外への転職のため自己都合による退職だと半額くらい)。年俸制になると退職金は出ず、扶養手当・住居手当もないと思います(大学によるようで、名古屋大学の承継職員の年俸制助教だと扶養手当と住居手当がつくそうです)。

1. 講師って何?

ここで「講師」と書いているのは常勤講師のことです。最近よく「高学歴ワーキングプア」のような言葉で取り上げられる例もある非常勤講師とは異なる概念です。国立大学の講師は、職階としては准教授と助教の間に位置します。

実は自分もよく分かっていなかったのですが、講師とは何かは、学校教育法の第 92 条に書かれています。

第九十二条 大学には学長、教授、准教授、助教、助手及び事務職員を置かなければならない。ただし、教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には、准教授、助教又は助手を置かないことができる。
○2 大学には、前項のほか、副学長、学部長、講師、技術職員その他必要な職員を置くことができる
(略)
○6  教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○7 准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の  優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○8  助教は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の     知識及び能力を   有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
(略)
○10 講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。

これを読むと、大学に講師という職を置くことは必ずしも必要でありません。また実際の運用はともかく、教授、准教授、助教は職務としては「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」ことであり、職務の差がありません。違いは青字で示した、知識、能力、実績の差のみです。

講師の職務は教授または准教授に準じるようですが、書かれている職務内容は助教から教授まで差がないので、おそらく知識、能力、実績が準じていて、それに応じた職務を行えということなのでしょう。

また講師は、大学や部局によっては大学院の指導教員になれるはずですが、自分の職場では准教授以上が指導教員をやることになっていると理解しています(規則としては見つけられなかったので、慣例?)。あと、演習や実験以外の講義も持てるようになりますが(これも大学などによって違うはず)、うちは研究所なので基本的に講義を担当する必要がありません。

2. 給料

さて、本題です。以前に助教の給料については本 blog 内でも書きました。
oxon.hatenablog.com
うちの分野のポスドクの給料の相場も記事にしています。
oxon.hatenablog.com

助教から講師へ昇格した場合、名古屋大学ではいくつかの規則に基づいて給与支給額の変更が行われます。基本的に他の国立大学でも同じような計算のはずです。

特に初任給や昇級(講師は 3 級、助教は 2 級)については本給細則に規定があります。

第12条 新たに職員となった者の本給は,前条の規定により決定された職務の級の号給が別表第6に定める初任給基準表(以下「初任給基準表」という。)に定められているときは当該号給とし,当該職務の級の号給が同表に定められていないときは同表に定める号給を基礎としてその者の属する職務の級に昇級し,又は降級したものとした場合に第22条第1項又は第23条第1項の規定により得られる号給とする。(略)

第22条 職員を昇級させた場合におけるその者の本給は,その者に適用される本給表の別に応じ,かつ,昇級した日の前日に受けていた号給に対応する別表第7に定める昇級時号給対応表の昇級後の昇給欄に定める号給とする。
2 前3条の規定により職員を昇級させた場合で当該昇級が2級以上上位の職務の級への昇級であるときにおける前項の規定の適用については,それぞれ1級上位の職務の級への昇級が順次行われたものとして取り扱うものとする。

これらに加え、以下に説明する昇給の仕組み、および先の助教の初任給についての計算を組み合わせると、准教授や教授の初任給も計算することができるはずですので、実際に計算してみましょう。

2.1. 昇級

まず、昇給ではなく昇級の説明です。大学教員の基本給は級と号によって決定されます。級は職階に対応し、助手が 1 級、助教 2 級、講師 3 級、准教授 4 級、教授 5 級となっています。またそれぞれの級はさらに号で細分化され、勤続年数(博士取得後からの経験年数)が増えると大きい号に増えていき、それに応じて号給が支給されるという仕組みです。

僕の場合は、2018 年 2 月時点での級号は 2 級 61 号でした。2012 年 9 月に助教として着任したときは 2 級 39 号です(着任時の級号の決定 = 初任給の決定はこちらの記事に書きました)。勤務状況が良好な場合、1 年間に 4 号ずつ増えるのが標準です。

助教から講師に上がると、当然 2 級から 3 級になります。しかし号がいくつになるかはどうでしょうか。これは、上記引用文中にある名古屋大学職員本給細則の「別表第7」に「ハ 教育職本給表(一)昇級時号給対応表」として定められています。これを見ると、2 級 61 号から 3 級に上がると、35 号になることが分かります。給与明細をみると、実際には 3 級 36 号給になっていたのですが、なぜ 1 号給高いのかはよく分かりません。まあ、大雑把な計算としてはこれで良いわけです。

2.2. 本給

この号給に対応する本給は、教育職本給表(一)に記載があります。354,800 円が本給の月額です。

しかしこれだけではありません。職員の給与には様々な手当が追加されることが名古屋大学職員給与規程に書かれています。自分に関係するところだけ赤くしました。

(職員の給与)
第3条 職員の給与は,本給及び諸手当とする。
2 前項の諸手当は,扶養手当,管理職手当,副理事手当,総長補佐手当,地域手当住居手当通勤手当,単身赴任手当,特殊勤務手当,超過勤務手当,休日給,夜勤手当,宿直手当,管理職員特別勤務手当,本給の調整額,初任給調整手当,義務教育等教員特別手当,教職調整額,期末手当勤勉手当,期末特別手当,主任指導手当,学位論文審査手当,英語講義促進手当,入試手当,安全衛生業務手当,看護部長補佐手当,病院勤務職員特別調整手当,クロス・アポイントメント手当及びクロス・アポイントメント勤勉手当とする。

このうち超過勤務手当は、出張などで土日に業務をしたものの、振替休日が取れずに代休を取った場合に支払われる労働基準法で定められた手当です。代休が発生しなかった場合は支払われないので、この記事では省きます。

以降で説明する各項目の計算は、人によって異なります。あくまで、僕の計算で説明していることに注意してください。

2.3. 本給の調整額

名古屋大学職員本給の調整額支給細則に定めがあります。

これまでは助教だったため「二 教授,准教授又は講師のうち,大学院研究科の修士課程を担当する者又は助教のうち,大学院研究科に在学する学生の指導に従事する者」に該当して調整数が 1 だったのですが、博士課程も担当する講師の扱いになったため「一 教授,准教授又は講師のうち,大学院研究科の博士課程を担当する者」に相当し調整額が 2 になりました。

調整基本額は講師の場合 11,900 円と同細則に定められているため、これに調整数 2 を乗じて、月額 23,800 円が支給されます。

本給 354,800 円 + 調整額 23,800 円 = 378,600 円

となるはずですが、「本給等支給額」として明細に記載されているのは 379,700 円で少し計算が合いません。

2.4. 扶養手当

扶養範囲の配偶者は月額 6,500 円、15 歳未満の子は 10,000 円が支給されます。自分の実際にもらっている扶養手当はこの金額より 500 円少ないのですが、よく分かりません。

2.5. 地域手当

(地域手当)
第14条 地域手当は,本学に在籍する職員に支給する。
2 地域手当の月額は,本給,本給の調整額,扶養手当,管理職手当,副理事手当,総長補佐手当及び教職調整額の月額の合計額に,100分の15を乗じて得た額とする。

短いので引用しました。本給、本給の調整額、扶養手当の和の 15% が地域手当になります。これは大学の所在地によって異なり、また大学によっては都市手当と呼ぶこともあります。東京 23 区では 20% と高額ですが、はっきり言って家賃や食費の相場からすると、名古屋の 15% は得なほうじゃないかと思います。

(本給 354,800 円 + 調整額 23,800 円 + 扶養手当 26,000 円) × 0.15 = 60,690 円

しかし、実際に明細を見るとこれも 60,855 円となっていますが、これは「本給等支給額」が自分の計算からずれているのが原因です。

2.6. 期末手当と勤勉手当

これらはいわゆる賞与に相当します。

期末手当は、本給、本給の調整額、扶養手当、地域手当の合計の 122.5% もしくは 137.5% の額が、それぞれ 6 月と 12 月に支給されます。

勤勉手当は同様に、100% の額が 6 月と 12 月に支給されます。

したがって、年間での合計は 460% となり、すなわち「年間 4.6 ヵ月分の賞与」という言い方が分かりやすいでしょう。ここまでの計算を踏まえると、2,146,153 円になります。

2.7. 住居手当

ものすごい安い借家に住んでいたり持ち家の場合を除き、名古屋大学では月額 27,000 円が支給されます。

2.8. 入試手当

これはセンター試験や二次試験の試験監督を担当した場合に支給されます。センター試験の場合、2 日間の合計で 18,000 円です。これも大学によって金額が異なります。

*1:ただし、色々と状況が変わったので、新しく名古屋大学に任期付助教として着任する人は注意してください。

*2:これは名古屋大学独自の取り組みであって、他の国立大学では助教から講師への内部昇格は一般的ではないと思います。

奨学金延滞率と大学入試難易度

最近、朝日新聞の記事などで、日本学生支援機構(JASSO)の「奨学金」を返済できない元大学生の話が頻繁に取り上げられるようになりました。JASSO の「奨学金」は、返還義務のある教育ローンが多くを占めるため、卒業後に十分な収入がないと返済することができなくなる場合があるためです。

日本学生支援機構(JASSO)は、2017 年に大学別の奨学金延滞率等の情報を開示しました。機構や国の狙う真意は分かりませんが、少なくとも彼らは回収率を上げたいのは間違いありません。情報を出すことによって「駄目な大学」を世に知らしめたいとか、借り手自体の数を抑制したいとか、そういうことでしょう。

この公開情報は https://www.sas.jasso.go.jp/ac/HenkanJohoServlet から大学ごとに取得することができます。何百もある大学ごとに一つずつ見るのは大変なため、Python で自動化して全部落としてきました。必要な人は Google Spreadsheet から閲覧してください。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1YrBLC5du_S1lMDIAbTTRed_YPFqKPFSUsSUM3j3qTGI/edit?usp=sharing

奨学金 借りるとき返すときに読む本

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ブラック奨学金 (文春新書)

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以前に東洋経済がこのデータを独自集計し、延滞率のランキングなるものを記事にしていました。その上位校は僕の知らない大学が多く占めており、また有名大学(=難関大学)は比較的下位に見られたため、奨学金の延滞率と大学入学時点での学力には相関があるのだろうという推測ができました。

ただし、これはあくまで相関であり、学力が低いと返済能力や収入が低くなるという因果関係を必ずしも示しません。例えば次のようなことも考えられます。

  • 難関大学に進学する学生は家庭が相対的に高所得な場合が多く、親に頼れば返済に困らないのかもしれない
  • 上位校は国公立大学の占める割合が高く、授業料が低いために借金の額が少なくて済んでいるのかもしれない
  • 大学入学時点で制度の仕組みを把握しておらず、卒業後の返済能力を超えて借りすぎたのかもしれない
  • 督促状などの文書に対する読解能力の違い、またその深刻さの受け止め具合が、学力に関係するのかもしれない

ここではこのような交絡の議論には踏み込まず、公開されている延滞率([C]/[A])と、ベネッセの公開している各大学の入試偏差値の相関のみを見てみましょう。偏差値が 55 を下回るあたりで、綺麗に奨学金の延滞率(過去 5 年間の貸与終了者数のうち、延滞が 3 ヶ月以上の者の割合)が上昇して行くのが分かります。ちなみに、偏差値 69 のところで延滞率の高い大学は、国際教養大学です。

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縦軸の誤差棒は二項分布の誤差(標準偏差)、横軸は最も高い偏差値の学部・学科と、最も低いものの範囲を表しています。

奨学金 借りるとき返すときに読む本

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(2018/02/19 追記)
こちらの 2/17 の記事に、ちょうど至誠館大学の学長の声が掲載されていました。
www.news-postseven.com

「本学は児童養護施設出身の学生を積極的に受け入れており、延滞率が高いのは、卒業後も実家から通勤できない、奨学金の返済に困っても親に一時的な支援も頼めないというケースが多いのではないかと考えている。しかし、日本学生支援機構に延滞者の内訳を尋ねても回答を拒否されるため、対策を立てるのが難しい」

との説明があり、そのような社会的、経済的な困窮者に対して進学の道を開くこと、経済的な支援をすることは、国としても、僕のような大学教員としても守り続けなくてはいけません。

大学入試時点で学力が低いものに金を貸すなという意見もあるでしょうが、18 歳の時点で学力が高いということは、それまでに十分な教育を受けられる環境にあったということです。それは本人のやる気や潜在能力を必ずしも反映しません。大学に限らず、より教育機会を均等に受けられるような努力が継続的に必要だと思います。