基礎科学関連の「事業仕分け」と一連の騒動 (1)

※ここは経緯だけを、なるべく客観的に書いたつもりです。意見はこちら(書きかけ)こちら

1. これまでの経緯

1.1. 民主党による「事業仕分け

2009年11月11日から11月27日までの期間、民主党による「事業仕分け」が開始されました。その作業中、蓮舫参議院議員をはじめとした「仕分け人」の判断によって、多くの事業が「仕分け」られ、「予算要求の縮減」もしくは「予算計上の見送り」という判断が下されました。この模様は連日報道され、また「仕分け」作業がネット中継されたこともあり、国民から多くの注目を浴びました。

この「仕分け」作業は緊迫した国家の赤字財政を建て直すためのものであり、税金の無駄遣いに敏感になっている国民からは一定の評価を受けているようです。また、国家予算というものが初めて国民の目に見える形で表に出てきたということで、画期的なことであると言えます。

1.2. 基礎科学関連予算の「仕分け」作業

そんな中、基礎科学に関連する予算に対しても、「仕分け人」から予算縮減の判断を受けるという事態が続きました。この結果に対して、予算を要求し、そして行使する側の研究者や大学関係者らは、「仕分け」結果を一大事と受け止め、多くの記者会見や共同声明の発表という、稀にみる事態へと発展しました。

一連の報道や研究者の議論の中で特に取り上げられたのが、2つの「仕分け」作業です。次世代スパコンと、特別研究員制度に関するものです。次の1.2.1と1.2.2に関連資料をまとめます。

1.2.1. 事業番号3-17 (独) 理化学研究所 (1) (次世代スーパーコンピューティング技術の推進)
  • 評価結果PDF
  • 注目された「仕分け人」の発言:「(世界)2位では駄目なのか?」
  • 「仕分け」作業の音声:D
1.2.2. 事業番号3-21 競争的資金 (若手研究育成)(若手研究育成) (1) 科学技術振興調整費 (若手研究者養成システム改革) (2) 科学研究費補助金 (若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費) (3) 特別研究員事業

評価結果PDF
注目された「仕分け人」の発言:「博士の生活保護

  • 「仕分け」作業の音声:D
1.3. 研究者の反応

多くの研究者の平均的な反応をまとめると、おおよそ次のようになるでしょう。(※私の意見ではありません。)

スパコンの予算計上見送りに対して:

  • 素人判断をたったの1時間でするのは危険だ。我々研究者が何年、何十年と培ってきた議論、知識、経験を無茶苦茶なやり方で切り捨てられた。
  • 「(世界)2位では駄目なのか?」なんてのは暴言だ。基礎科学は常に1位を目指して研究が行われている。その努力の結果として、2位や3位になることはある。最初から1位を目指さずにやったら、100位にもなれない。
  • 基礎科学の研究に、費用対効果という概念は馴染まない。
  • 国際競争にはスパコンの計算能力は必要だ。
  • 一度研究が途絶えると、技術が散逸して大変なことになる。

若手研究育成の予算縮減について:

  • 特別研究員の制度が「博士の生活保護」だなんてとんでもない。
  • 多くの優秀な人材を、これまでの特別研究員の制度は輩出してきた。

全体的に:

  • 研究者が積み上げてきた議論をたったの1時間で台無しにされた。
  • 時間をかけて研究者が自分たちで検証してきた。
  • 基礎科学を無視するような政治方針は許されない。日本を駄目にする。

他にも個別の項目に対して、様々な意見が出ています。例えば大学の運営交付金の減額や、すばる望遠鏡などの運営に使われている特別交付金が減額されようとしています。

1.4. 研究者の声明と討論会

1.3に書いた研究者側の総意を、政府や国民に届くように、またマスコミに報道されるようにということで、日本中の偉い先生方が集まっていろいろな声明を出しました。把握している有名どころを列挙します (日付順)。

  1. 事業仕分けに際し,“短期的成果主義”から脱却した判断を望む 科学技術創造立国を真に実現するために by 国立大学法人10大学理学部長会議 2009.11.23
  2. 【共同声明】大学の研究力と学術の未来を憂う −国力基盤衰退の轍を踏まないために− by 旧帝大+早慶総長 2009.11.24
  3. ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会 声明文 by ノーベル賞フィールズ賞受賞者 2009.11.25
  4. 立花隆が訴える:“すばる”が止まる!事業仕分けの暴挙 by 自然科学研究機構 2009.11.27

このような、1つの問題に対して声明や討論会が立て続けに起こるという事態は、少なくとも私が1999年に東大に入学してから、初めてのことでした。今の東大には政治色のある立て看板はなく、理系の学生が政治を語る場面もそう多くありません。多くの大学の教員達も、政治に対して全員でこれだけモノを言うということも、普段は決してありません。それだけ今回の「事業仕分け」は異常事態だとして研究者から受け止められました。

1.5 私が参加した東大での討論会

私は、事業仕分けに関連して2つの討論会と1つの説明会に出席しました。1.4.に書いたものと重複します。

  1. ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会 声明文 by ノーベル賞フィールズ賞受賞者 2009.11.25
  2. 立花隆が訴える:“すばる”が止まる!事業仕分けの暴挙 by 自然科学研究機構 2009.11.27
  3. 大学、学術研究に関する国の動向について by 東大、内部向け 2009.11.27

このうち、1つ目の討論会は学生の有志によりインターネット中継が実施されました (中の人の感想など)。これは視聴人数も2000人程度いたそうで、注目の高さが伺えます。